児島直美歌集『春の引出し』

定価:2,750円(税込)

判型:四六判上製カバー装

頁数:184頁

ISBN978-4-86629-291-5

いちめんのなのはななのはな渾身で古墳の春を抱きしめている

 

 

児島直美さんは春の歌人である。

書名も『「春の」引出し』だ。

言うまでもなく、長く厳しい冬をのりこえて迎えるのが春である。

巻頭歌のこの春の一首、古墳の丘のゐ一面の菜の花を明るく喜びにあふれたリズムで歌っている。

 

「春の古墳」でなく「古墳の春」であり、抱きしめているのは春という大きな季節であるのがすごい。

「渾身」は「今身」と掛けているのだろう。

児島さんは菜の花と同体になって、春を抱きしめている。

そのしなやかさに一切を抱きしめる力が歌集一巻をつらぬいている。                    ーーーーーーーーーーーーー伊藤一彦 帯文より

 

 

 

 

空の青胸いっぱいに吸い込めばわたしに春の呼吸が満ちる

 

風光る坂をましろきシャツの群れ駆けぬけてゆく四月の明度

 

印刷室の朝はみずうみ水鳥が飛びたつように文字は生まれて

 

出席簿に斜線の続く行ありてきらきらネームの姫は目覚めず

 

ギリシャ神話の神の名のごと「イレウス」が母のカルテに記されし朝