田上嘉尋歌集『夕映えの川面』

定価:2,750円(税込)

判型:四六判上製カバー装

頁数:184頁

ISBN978-4-86629-300-4

夕映えの川面を滑る赤白のアメンボ二匹はシングルスカル

 

田上嘉尋さんは宮崎市の中心を流れる大淀川の川沿いをしばしば散策するのだろう。そんなある日夕映えのなかに見たおそらく高校生のボート。「アメンボ二匹はシングルスカル」の捉え方が楽しく面白い。日ごろから若者を愛し、自然を賞でる田上さんならではの歌だ。

家族や自然とともにリタイア後の暮しをゆったりと落ち着いた調べで歌う田上作品は読む者の心を豊かにしてくれる。時に怖いような鋭い作もあるが、それでも人間愛から出ている。

人生のより深みを向かおうとしている田上さんのこれからの歌をさらに期待している。

 

山芋の伸びゆく蔓は現世を手探りしつ依り拠捜せり

 

                   伊藤一彦・帯文

 

 

 

『夕映えの川面』より五首

 

左手に歯磨きの技教へをり新しきわれ探さむとして

 

四人(よつたり)も碁の友来たり足らざれば豚も参加の猪(しし)鍋となる

 

不機嫌が充満したる地球より遁れるごとくソユーズが発つ

 

たつぷりと夏のみづゆく大淀の川に流れぬ月を見る朝

 

回らない寿司なら行くと君は言ふ回るもいいと一度も言はぬ