鈴木英子歌集『喉元を』

定価:2,640円(税込)

判型:四六判上製カバー装

頁数:176頁

ISBN978-4-86629-3141

待望の第五歌集!

 

月島、勝どき橋、佃、晴海。

そこは東京の異界、作者の産土の地。

現実をそのままに受容し、あらんかぎりの思いをこめて、娘に、母に、すべての日常の中ですれ違ってきた人々に。

あかあかと血の夕映えを吐き続ける。心が震える。歌が顫える。

 

 

『喉元を』より五首

 

桜さくら戦後をふぶき一本の樹命、寿命を迎えるらしき

 

セルロイドみたいな声だ 本当に愛しているのは他人ではない

 

身の内に積もる憂いをわたくしも春に噴くかな春を噴くかな

 

われの手がはるか武将の太首を刎(は)ねたることのなきとは言えず

 

わたしのなかの鍾乳洞が喉元を過ぎたしずくを湛え続ける