多彩な作品が収められた歌集である。自らの人生や生活について自省し、世の在りように抗議し、また、移り変わる季節の中に草木や生活を見つめ、亡くなった身近な人達、あるいは戦争や災害で命を失った人々への鎮魂の思いを歌に託している。
― 上條雅通「解説」より ―
<引用五首>
草野球に鈍き動きを謗られて小さき胸に棘の残りき
野にあらば風と揺れ合うコスモスの花生けの中に一輪挿さる
旅先のモンサンミッシェルのポストより亡き子を宛名に絵葉書出しぬ
禁酒日の眠れぬ夜にラジオかけ零時を待ちつつ厨に立ちぬ
原発に使わるる石油納めしこと職退きてなお脳裏に残る