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定価:2,750円(税込)
判型:四六判上製カバー装
頁数:198ページ
ISBN978-4-86629-338-7
近藤さんの歌には憧憬の対象に出会って精神を開放してゆく傾向がみられる。これは近藤さんに限らず歌人が持つ感受性なのであるが、対象に入り込む素直さとやさしさが近藤さんの歌の持ち味であるといえるだろう。
ーーーーーーーー梅内美華子「解説」より
<引用五首>
海原の涯よりうまるる朝光が伊根の舟屋をこの世に戻す
耐洗耐光性の色に染める吾のひと生は布との格闘
みち一杯に矢絣模様を描きつつゆつくりすすむ母の田植機
まだ生きるもつと生きるを口にして光の雫をじつと見つむる
林檎の香残る空箱に今朝摘みし蕗の薹詰め旅つづけゆく
定価:2,420円(税込)
判型:四六判上製カバー装
頁数:152ページ
ISBN978-4-86629-343-1
欲しいのはしずかなちからこの冬の発語としての初雪を待つ
<「栞」より >
「しずかなちから」とは具体的に何なのか、と読んでゆく時の読者の期待を良い意味で裏切って、この下句には確かな存在感がある
ーーーーーーー河野美砂子
雪を作者は嫌っているわけではない。むしろ心待ちにしているのだ。初雪を「冬の発語」と捉えるところに雪への愛情が滲んでいる。
ーーーーーーーー松村正直
<引用五首>
ひと筋の蜜のようにも細りつつ濃さを増してゆく真冬のこころ
わたしからさびしい馬が立ち上がり吸われるように雪へと消えた
どか雪に埋め尽くされた道が開き北國新聞三日分くる
墓を終い生家を終い少年のわたしを終いふるさとをしまう
鉛筆で<はる、春、悠(はる)>と書いてゆく罫線の畝に種まくように
判型:四六判上製カバー装
頁数:216頁
定価:2,750円(税込)
ISBN978-4-86629-344
人と人を結ぶのは言葉
帯文よりー 佐佐木幸綱
<栞付き>
歌に込められた”戦禍の記憶” 大石芳野
硬派の抒情性 栗木京子
事実から歌へ 小池昌代
<引用10首>
星空を朝日が殺す一点の曇りなき日を始めるために
白紙からつくりはじめる新聞は日々完全を追う不完全
蜂蜜が頤(おとがい)を垂る逝く日までニュースにまみれ生きてゆくのか
湧き上がる。真夏の空の青さから積乱雲の白とめどなく
近づいてゆけばゆくほど雲離れ遠い水平線だ、読者は
ドローンの眼で見るドリップ珈琲の乾きゆく核燃料プール
魚跳ねて傷む水面を縫う針の迅き運びを重力という
感情は液体としてここにあり湧く、込み上げる、浸る、溺れる
薄曇に白くけぶれる名残りの月 きょう本当を伝えられたか
共同通信の修正電文流れてきてひと文字直す「る」から「た」へと
定価:2,860円(税込)
判型:A5判上製カバー装
頁数:224頁
ISBN978-4-86629-337-0
第一歌集!
君よりの長き手紙を読むやうに炉辺(ハース)にひとり炎見つむる
曽祖母も祖母母我も張り継ぎて障子よ清し百年の家
紀の国を初めて旅し木と水と石より成れる土地と知りたり
名詞が多く、なかんずく固有名詞が多い歌集だからだろう、めりはりがきいて輪郭のすっきりした歌が多い印象である。歌集には、家族をはじめ多くの人名が歌われ、多くの地名、多くの具体的事象が歌われている。あくまでも具体的な点が特色である。さらに私が注目したのは、作者の好奇心の強さと、行動力である。縄文杉を見るためにわざわざ屋久島まで行った歌、髙橋真梨子の最後のコンサートに行った歌などがあって驚かされた。
--------------------------------------------------------------------------------------佐佐木幸綱 帯文
<引用五首>
屋久島の真青の海を胸張りて直線にとぶ飛魚の群
秋植ゑの葱すんすんと伸びあがる春雨降らす空に向かひて
ひもすがら古本屋街歩きにき一冊の本とラドリオの珈琲
廃線の転轍機ギと動かして幻の汽車来さしめむかな
腕組みてかの月見台に立ちをらむ文届けかし雁に託せば
定価:1,980円(税込)
判型:四六判並製カバー装
頁数:300頁
ISBN978-4-86629-334-9
炎のように青くー
塚本邦雄、前衛歌人の軌跡
冷徹にしてときに青く炎だつ、灼熱の詩的パンセ!
若き日の葛藤、苦悩、そして情熱…
塚本邦雄の初期歌集誕生の時代背景と内的ドラマを克明に辿り、その作品価値を現在に再創造する。
冷徹な分析と情熱的な論考が織り成す、470枚の圧倒的な詩的思索。文学とは何か、そして前衛とは?
<目次より>
「前衛以前」に胚胎するもの
『水葬物語』の生成
死の歌の互換可能性
死という栄光
『往復書簡』-批評の戦場
『透明文法』のメトード
『装飾樂句』-倒立した硝子のオブジェ
『日本人靈歌』-革命か、ニヒリズムか
『水銀傳説』-孤立無援の「前衛派」
『水銀傳説』-「言語フェティシズム」の詩法
『緑色研究』-藝術至上萬華鏡
『感幻樂』-「闘争」の季節に
『星餐圖』-韻律の彼岸へ
定価:2,530円(税込)
判型:四六判並製カバー装
頁数:214頁
ISBN978-4-86629-340-0
第29回若山牧水賞 受賞!!
スプーンで口元に運ぶカレーライス二人羽織めく母の食事は
生きるとは死ぬまで生きむとする力テーブルの海に母の手泳ぐ
「介護と言うと何か負の側面が強調されがちですが、私自身の感覚としては困難とか苦しさより楽しさとか喜びを歌ってきたという思いがあります」(あとがきより)
抒情詩の可能性を追い求める作者の優しくも切ない短歌集!
<引用五首>
もたもたと着替へて布団の中に入り母は安心満点の顔
母と歌ふきらきら星は途中まで買ひ物帰りの冬のゆふぐれ
笑つてるやううな寝顔で眠りをる母は無言でわたしを救ふ
美味しくて食べたいときは前に出る口へとまぐろの赤身をはこぶ
天人に寿命があるといふ話うつくし真夏の夕暮にゐて
定価:2,860円(税込)
判型:四六判上製カバー装
頁数:242頁
ISBN978-4-86629-339-4
第七歌集!
晴れた日はアブラカダブラ風になりアボカド号で海辺を走る
歌という幻想空間に立つ。眩暈のような日常の束。
コロナ、ウクライナ、時代の大きなうねりの中で、なだらかな地平の彼方から美しい言葉を捥ぎ取る。
<引用五首>
おだやかなわが三河湾北東へ波は微粒の砂はこびをり
いちにちを足したり引きたりせよといふ日付変更線ばかりが平和
ウクライナを遠き国とは思はない 三月のあさ空をゆく雁
春ひと日街を歩みてボルドーの白アスパラのひかりを食べる
まひるまの八百屋に着弾片のどと白いいちぢく赤いいちぢく
定価:2,750円(税込)
判型:四六判上製カバー装
頁数:170頁
ISBN978-4-86629-332-5
前歌集の『アレジアは雨』からほぼ十年。
この歌集にはさらにいとおしい家族たちを著者はひたすらに詠い上げている。
作品はいかにもしっとりとした詩情にあふれ、著者ならではの世界をさらに切り開いて行こうとする姿勢が強く窺える。長年つれそってきた一人を偲ぶ作品は、人間としてのかなしみにあふれ、切々として読む人の心を執えてやまないものがある。
帯文 林田恒浩
<引用 六首>
さゐさゐと葉に降る雨の閑かなり白あぢさゐは誰が魂ならむ
疲れ兆す身にはしなくも沁みとほる夏うぐひすの透明の声
冥界の姉とわれとをつなぐ路爪木崎さかりの水仙を訪ふ
さすらひの想ひはきざす昼の月かくあはあはとわれに晩年
連なりて無蓋の貨車が北へゆくながく忘れてゐたる風景
はからずも泪こぼれき伏す夫が掌を述べて言ふ「今日もありがたう」
定価:2,860円(税込)
判型:四六判上製カバー装
頁数:278頁
ISBN978-4-86629-336-3
遍路。
それは祈りのかたち。
祈りは、やがて詩ごころへと昇華される。
身辺日常のものたべて、まばゆい歌のかけら。
悠々と拾い集めながら、この細い透明な小道をゆくのみ。
<引用 五首>
からからと去年の若葉が風にちる今年の若葉の陽に透ける谷
どうぞもう好きにいきてくださいと満作が咲く冬晴れの庭
はぐれ雲ふたつ浮かべる山麓のまだ濡れている駅につきたり
袈裟、数珠と地図もテッシュも雨に濡る白ビニールの頭陀袋なり
光るからまれにみかける百円よ微笑みおびて咲くがごとくに
定価:2,750円(税込)
判型:四六判上製カバー装
頁数:176頁
ISBN978-4-86629-333-2
第一歌集
許せぬが許すにかはる変換キー心のボタンを少しずらして
石原美智子さんに会うと、温かな笑顔にこちらの気持ちまで優しく温かくなる。
私だけでなく他の人もそうである。だから友だちもファンも多い。だが、石原さんが穏やかな表面と別の渾沌とした鋭い内面を当然ながら秘めていることをこの歌集は教えてくれる。「心のボタン」をいつも調節して生きている「心の苦労人」なのだとあらためて思う。彼女が苦楽を味わいながら過ごしてきた長い時間、家族とともに過ごしてきた濃密な時間に想いを致す一冊である。
伊藤一彦 帯文
<収録歌より>
草かげに野地菊さけりひつそりとうす紫を秋に託され
すぎてゆく時を刻み吾亦紅(われもかう)冬には冬の姿に立てり
声だせば地球の向かうへ届くやう青空だけの宮崎の冬
我が持てる小型船舶操縦士二度しか使はぬ免状あはれ
同じむき同じ間隔に飛ぶ雁よ茜にそまる山の端を背に
定価:2,750円(税込)
判型:四六判上製カバー装
頁数:196頁
ISBN978-4-86629-328-8
第二歌集!
たとえば空の青の深処へ
そっと言葉を置く。いつか、どこかで
置き去られたはずの言葉が輝きを放ち始める。
平凡な日常であっても、病む日々であっても。
すべてを歌のしらべに委ねて、命の気息を確かめたい。
<引用5首>
冬木の枝いつぱいに咲く雪の花あしたの空へ散りかへるべし
しかられて暗くなるまで歌ひたりひとり鞠つき「あんたがたどこさ」
オリオンの三つ星さしてありんこの行列きたと麻里ちやん笑ふ
反物は茜の光 ひろげれば花輪の山を染める夕焼け
天の河かかり星団あまたある肺の宙なるCT画像
定価:2,750円(税込)
判型:四六判上製カバー装
頁数:180頁
ISBN978-4-86629-329-5
第四歌集
信頼篤い二人が見つめ合う互いの眼差しに
「命をぢかに」と気づいた含羞が眩しい。
愛の歌集の
深く尊い味わいと出会えた。
御供平佶 帯文
<引用5首>
光背を炎(ほむら)に凝らす目にやがて七羽の火の鳥の影
紅葉の樹々のあはひに奥まれる多宝塔夕べの闇に呑まれぬ
ゆかしさの日々に募り来アヴェ・マリア終の別れをわが告げざりき
円柱の中ほど太く地震に耐へ大和飛鳥の寺社に伝へ来
あたたかき胸にうつぶすわが裡を溢れくるもの零るるままに
定価:2,200円(税込)
判型:四六判上製カバー装
頁数:154頁
ISBN978-4-86629-326-4
第一歌集
世界と暮しをゆったりと短歌に抱きとめて楽しむ西崎恭司がいる。
三枝昻之
人生の機微を衒わず、感情過多にならず短歌という定型詩に預けることが出来るのは同世代歌人の中では出色だろう。
渡 英子
たくさんの他者との関わりのなかで意外性のある自在な自己像が照らしだされている。
小島なお
<引用 五首>
出来るだけ皿を使はぬやうにして妻の居ぬ間の夕餉を済ます
メルケルの席を選びぬ伊勢志摩に首脳ら囲みし丸テーブルの
父の日に夏の帽子とささやけり幼かりし娘(こ)のねだりし如く
八十年戦後を生きて僕たちは一体なにを学んだのだろう
運命とふ配り直しの無きカード活かす他なし けふの青空
多彩な作品が収められた歌集である。自らの人生や生活について自省し、世の在りように抗議し、また、移り変わる季節の中に草木や生活を見つめ、亡くなった身近な人達、あるいは戦争や災害で命を失った人々への鎮魂の思いを歌に託している。
― 上條雅通「解説」より ―
<引用五首>
草野球に鈍き動きを謗られて小さき胸に棘の残りき
野にあらば風と揺れ合うコスモスの花生けの中に一輪挿さる
旅先のモンサンミッシェルのポストより亡き子を宛名に絵葉書出しぬ
禁酒日の眠れぬ夜にラジオかけ零時を待ちつつ厨に立ちぬ
原発に使わるる石油納めしこと職退きてなお脳裏に残る
定価:2,530円(税込)
判型:四六判並製カバー装
頁数:172頁
ISBN978-4-86629-325-7
自ら体験した心身の苦しい状況を短歌で表現するということは、その苦悶を追体験することにほかならない。
それは生半可な精神ではできない。
これを表現せずにいられないという強靭な表現意志が必要なのだ。
その表現意志に短歌型式もまた、応えている。
その意味で安斎未紀は、まぎれもなく短歌に選ばれた人である。
短歌に選ばれた人の命がけの表現を受けとめてほしい。
ー藤原龍一郎「解説」よりー
<引用五首>
とめどなく花手折りたり眼底に狂ひ回れる観覧車かな
病棟がま水に沈む午前零時 我が鼻犬のごとくつめたし
呪ふこと傷抉ることわらふこと 雨一滴の紅かれと思ふ
掌に象よ、麒麟よ、獅子よ歩め、ものみな小さく見ゆる星月夜
眠れぬを日常として暗がりに水色の蛾の舞ひ狂ふなり
定価:1,870円(税込)
判型:四六判並製カバー装
頁数:130頁
ISBN978-4-86629-312-7
第一歌集!
観ずにはいられない、
聴かずにはいられない、
触れずにはいられない。
どこまでも対象に肉薄していく言葉たち。
著者の世界に対する解像度の高さによって、世界が現実以上の迫力を持って目の前に立ち上がってくる。
過ぎゆく一瞬、今という時を生き、歌うとはこういうことなのだ。
<帯文 佐佐木定綱>
◉引用五首
殘照の靜けさ。木ずれ、波の音。三笠が闇を吸ひて膨らむ
千年經る藥師如來の掌の生命線の斯くも短し
父に教はりしセミウヰンザーノツトにて謝辭を述べつるぬばたまの通夜
百億の稻の寢汗のにほひ立つ眞夏の横て盆地の夜明け
ベランダに干したるシヤツの影が伸び妻の背中をひらりくすぐる
定価:2,530円(税込)
判型:四六判上製カバー装
頁数:160頁
ISBN978-4-86629-302-2
第一歌集。
いまだ見ぬものたち。
いまだに逢えぬものたち。
手探りで、素志のままに、おだやかに。
日常の向こう岸に何かが動く、何者かがささやく。
平成の三十年間を詠み継いできたかけがえのない歌物語。
<引用五首>
産み終へて抜け殻のわれ耳鳴りも秋の夜ふけの闇にゆだねて
道端の穴の底ひに幼子は見えざるものを見るにあらぬか
未知のもの想ふは楽し例ふれば生まれくる子の性の別など
惑星の如く湯舟に浮かぶ柚子自転しながら吾に近づく
息ひそめセージの葉陰に動かざる夏の蜥蜴の孤独思ひつ
定価:2,200円(税込)
判型:四六判並製カバー装
頁数:148頁
ISBN978-4-86629-324-0
待望の第9歌集!!
世界や社会を凝視しつつ、
その純粋にして旺盛な批評精神が、
いくばくかの諧謔とユーモアと、
そして深いかなしみを基層として、歌という器にぶつける。
撥ね返ってくるものはどうだっていい。
自分が他者であるために。
<引用5首>
人類は「パンツをはいたサル」であり「マスクをつけたサル」ともなつた
「ハッピーバースデー」歌ひつつ手を洗ひなさい心までは洗はなくていいから
糸瓜咲きロンドン橋は墜ちにけり 三十六歳(さんじふろく)の死九十六歳(きうじふろく)の死
軟水で淹れた紅茶にサンキスト・レモン一切れ酸つぱい戦後
一本のヒマラヤ杉が人生の記憶に立つが他の樹も立つてる
定価:2,200円(税込)
判型:四六判上製カバー装
頁数:148頁
ISBN978-4-86629-322-6
第一歌集。
失ったすべての後、短歌が作者に新しい希望を与えた。
悲しみと回復の物語、
一つ一つの歌が彼女の心の声を映し出す。
新たな人生を歩む彼女の勇気を感じて欲しい。
帯文 佐佐木頼綱
『大切なわたし』より5首
障害の身の上のこと秘めたまま生きゆく先の黙秘は難し
生きること数多抱える生き辛さ風薫る今皆に伝える
勝ち負けを問う大人にはなれなくて作業所通う障りある身の
夏めきて過ぎしひととせ清和なる作業所通う吾を労る
梅雨晴れにかかりし虹を見る吾の皆の助けに感謝し生きる
定価:2,530円(税込)
判型:四六判並製カバー装
頁数:178頁
ISBN978-4-86629-317-2
第13歌集。
売買川―ウリカリ、アイヌ語で捕った魚を集める所
春が来ればせせらぎのひびき。
白い辛夷の花が咲き、蝶やトンボが群れ飛ぶところ。
この北の大地にどっしりと深く根を張る樹。
歌う樹だ。雄々しく、野太い声で大空に向けて叫ぶ樹だ。
『売買川』より四首
長靴の中なる闇の薄らぎて今日が静かに動きだしたり
足の裏から生まれる歌のあることを知つてゐるのはポロシリカムイ
日溜りの石のものいふ火の匂ひ水の匂ひを漂はせつつ
深呼吸すれば肺腑に春の香の満ちて農魂拳に集ふ
定価:2,640円(税込)
判型:四六判並製カバー装
頁数:186頁
ISBN978-4-86629-315-8
第二歌集!
この世とあの世との境目に、
あるいは現実と幻想の交差点に、
猫がうろついている。ぼくも同じだ。
異界のまどろみに腕を入れて、言葉たちをもぎ取る。
ぼくの世界はどこにあるのか。酩酊し、さ迷い続ける旅人。
<引用5首>
わが歩み過ぎりゆくとき猫の耳ほっそりと立つ眠りながらに
上を向き夜空を照らしめぐる灯はこの世の側ゆえだれも応えず
おんなというほのかな業(わざ)も世にありて ほそやかな肩を夏陽に曝す
存在のゆらぎのように陽をあびるマンホール縁の小砂の若草
かぎりなく偶然の景であるさびしさよ木々の罅入るよごれた空は
定価:2,200円(税込)
判型:四六判並製カバー装
頁数:228頁
ISBN978-4-86629-318-9
前著『古歌に尋ねよ』を継承した、珠玉のエッセー。
日本社会と日本人の生は、今、並々でない転換期を迎えている。こういう時にこそ、大きく遠い歴史をふり返ることが必要だ。短く読みやすい古典<和歌>を窓として、我々の<今>を抱えつつ、歴史的世界の人間たちに問を発してみよう。
▶▶主な項目
第一章 炉心溶融紀の十年
炉心露出の後に
もっと大地の方へ など
第二章 王朝 日本文芸の故郷
歌語という技芸
和歌の情感の成立 など
第三章 今 熱く学べ 日本中世
良経秋色
鴫立つ沢 など
第四章 色好みのモラリティ
色好みと鼻
恋と禁忌 など
第五章 和歌の造型と生態
和歌と古代国家
風景の成立 など
第六章 訪ね歩き 古歌の里々
香薬師よ、いずこ
桜田へたづ鳴き渡る など
「炉心溶融期の十年」は、高度技術時代に生きる我々の危うさと伝統的心性との関係を考える。
「王朝 日本文芸の故郷」「今 熱く学べ 日本中世」では、我々の
感性の源流と、その大変革期である中世の様相を、転換期の今日的課題に引き付けて思索する。また「色好みのモラリティ」では、今日なお変わらぬ、日本人の情緒的・美的なモラル感覚の源を究明する。・・・
▶▶著者について
1940年生まれ。早稲田大学文学部および大学院文学研究科を卒業・終了。専攻は和歌文学・日本古代文学。博士(文学)。フェリス女学院大学名誉教授。
定価:2,640円(税込)
判型:四六判上製カバー装
頁数:176頁
ISBN978-4-86629-3141
待望の第五歌集!
月島、勝どき橋、佃、晴海。
そこは東京の異界、作者の産土の地。
現実をそのままに受容し、あらんかぎりの思いをこめて、娘に、母に、すべての日常の中ですれ違ってきた人々に。
あかあかと血の夕映えを吐き続ける。心が震える。歌が顫える。
『喉元を』より五首
桜さくら戦後をふぶき一本の樹命、寿命を迎えるらしき
セルロイドみたいな声だ 本当に愛しているのは他人ではない
身の内に積もる憂いをわたくしも春に噴くかな春を噴くかな
われの手がはるか武将の太首を刎(は)ねたることのなきとは言えず
わたしのなかの鍾乳洞が喉元を過ぎたしずくを湛え続ける
定価:2,640円(税込)
判型:四六判上製カバー装
頁数:184頁
ISBN978-4-86629-308-0
こころの裡にひろがる街。
さびしい光の街並み。
その光をそっと掬い取るように歌を詠み継ぐ。
たとえば単調な日常の風景や人々の暮しなどに、豊かで純粋な詩情を注ぐ。それが歌のかたちと信じつつ。
『桜桃』より五首
小さなる脇屋根にさへ瓦あり雪積む村の人のゆたけさ
ひそやかな恋のごとくに開きゐる茗荷の花のうすき黄の花
潮鳴りを聞きたしと日々に思へども今朝は鴉のこゑを聞くのみ
きさらぎは優しく生きむ青空の隈なく光りて北の風吹く
柿若葉青葉になりて過ぎながら硬くなりゆく思考さびしむ
定価:2,640円
判型:四六判並製カバー装
頁数:204頁
ISBN978-4-86629-313-4
第三歌集。
道のり遠く
時こそ長けれーーー。
並々ならぬ歌への執心。古きに学び、定型のしらべを感受していく。
さらば、ともに、おおいなる祝福を送ろう。
前方から聴こえてくる、古典という木霊に。
『まはからびんか』より五首
ぬばたまの夜長を鳴けよ秋の虫さらば嫁来む汝れこそ知らね
スーパーに一人男のカート押す姿増したるこの十年余り
春の雨かすかに降るを傘に聞き花朝市の主を待ちゐつ
弁当の投げ捨てられし空箱はしばしばなれば人の形代
仰ぐべき梢に花の咲かずんばひかりなき根の思ひや果てむ
定価:2,750円(税込)
判型:四六判上製カバー装
頁数:184頁
ISBN978-4-86629-300-4
夕映えの川面を滑る赤白のアメンボ二匹はシングルスカル
田上嘉尋さんは宮崎市の中心を流れる大淀川の川沿いをしばしば散策するのだろう。そんなある日夕映えのなかに見たおそらく高校生のボート。「アメンボ二匹はシングルスカル」の捉え方が楽しく面白い。日ごろから若者を愛し、自然を賞でる田上さんならではの歌だ。
家族や自然とともにリタイア後の暮しをゆったりと落ち着いた調べで歌う田上作品は読む者の心を豊かにしてくれる。時に怖いような鋭い作もあるが、それでも人間愛から出ている。
人生のより深みを向かおうとしている田上さんのこれからの歌をさらに期待している。
山芋の伸びゆく蔓は現世を手探りしつ依り拠捜せり
伊藤一彦・帯文
『夕映えの川面』より五首
左手に歯磨きの技教へをり新しきわれ探さむとして
四人(よつたり)も碁の友来たり足らざれば豚も参加の猪(しし)鍋となる
不機嫌が充満したる地球より遁れるごとくソユーズが発つ
たつぷりと夏のみづゆく大淀の川に流れぬ月を見る朝
回らない寿司なら行くと君は言ふ回るもいいと一度も言はぬ
定価:2,860円(税込)
判型:四六判上製カバー装
頁数:284頁
ISBN978-4-86629-306-6
<近代の青春を読む>
郷土宮崎の地から浮遊する強靭な魂。
その空はどこまでも青く澄みきっている。
牧水の歌を、牧水の心を、純粋にして高い文学の志をもって、啄木などとの交友関係、妻・喜志子の歌を丹念に読み解きながら、生き生きと描かれていくロマン的な世界。
孤独な人間の深い影を踏みしめながら。
*目次より
第一部
Ⅰ 若山牧水と石川啄木
Ⅱ 啄木と牧水
Ⅲ 与謝野晶子と若山牧水
Ⅳ 区切れを考えるー信綱『思草』と牧水『別離』
Ⅴ 牧水における「古代的思考」
Ⅵ 牧水のわが愛誦歌
Ⅶ 若山牧水ー近代日本の杜甫・李白
Ⅷ 俵万智著『牧水の恋』を読む
Ⅸ 若山牧水をどう読み、考えるか
第二部
Ⅰ 若山喜志子の歌 上
Ⅱ 若山喜志子の歌 下
定価:2,750円(税込)
判型:四六判上製カバー装
頁数:208頁
ISBN978-4-86629-309-7
西に広がる関ヶ原、その彼方に伊吹山の聳える西濃の地。
農村の面影をとどめ、歴史にゆかりある地を拝啓にした日々が、一首一首リアルに刻まれる。きびしくも豊かな自然を見つめ、地域の老齢世代との人間的な交流を詠い、間歇泉の甦る亡き夫の追憶、教職時代の佳き思い出が噛みしめるように歌にとどめられる。とりわけ不穏に傾き始めた時代への恐れや批判の歌には強く訴えるものがあり、戦争で父を失った世代の切実な声として忘れがたい。
帯文 島田修三
*・。*・。*・。*・。*・。*・。**・。*・。*・。*・。*・。*・。*
『風越』より5首
田起しにめくらるる田が息を吐きむわっむわっと春近づきぬ
選られざる厳粛があるスーパーの霜降り飛騨牛まだ値を下げず
空缶になって蹴られて転がってそのまま冬陽を浴びつづけたい
「あらざらむこの世」と書きて筆を上ぐ紙の余白に伸び来るひかり
暴力をかくはればれと流しゆく今朝のテレビは軍事パレード
びっしりと蟻が熟柿に群がれり蜜こそちから蜜こそいのち
定価:2,400円
判型:四六判並製カバー装
頁数:186頁
ISBN9784866293073
第二歌集。
何もない、役にも立たない。
空漠として、ただ寂寥とともに在る。
そんなものに心を震わせ、色を透過させる。
感動の変換、それが歌だ。比類なき魂の戦慄だ。
-∴-∵-∴-∵-∴-∵-∴-∵-∴-∵--∴-∵-∴-∵-∴-∵-∴-∵-∴-∵-
『くうそくぜしき』より五首
夕焼けの赤を怖がり泣いた日があった母さんの手を握りしめ
凍る日の雪のさらさら君のこと好きと何度も行ったさらさら
雨降れば空とつながる心地して約束のない日は濡れてゆく
ひざ抱けば裡から音の響く夜わたしはひとつの心臓である
はじまりは針孔に糸通すこと光に向かってゆく糸の先
-∴-∵-∴-∵-∴-∵-∴-∵-∴-∵--∴-∵-∴-∵-∴-∵-∴-∵-∴-∵-
定価:2,200円(税込)
判型:四六判上製カバー装
頁数:148頁
ISBN978-4-86629-311-0
第二歌集。
素材に対する独特の把握力、あたたかみを伴う笑いの要素、作中に生きる五感等々に裏打ちされた諸作は、一段と円熟味を増しており、どの作品においても橋田昌晴が紛れもなく息づいている。
本書において「虹」は大いなる意味を有する存在である。
ウクライナの橋上に、コロナ禍の空に、作者の心に、虹は鮮やかに架かっている。
―――――野地安伯「解説」より
『虹立つ』より五首
遺言書を書き終えたりと告げたれば生きて欲しいと妻は涙す
パソコンのキーボード叩くまでもなく患者の病名が顔に出ており
メラノーマの手術終わりぬ南天に赤く明るく火星煌めく
向日葵の種子は多くの実を結び「復活」の日は遠からず来ん
長引けるコロナ禍の中雨あとの虹を見つけて告げに来る妻
定価:1,650円(税込)
判型:A5判並製カバー装
頁数:224頁
ISBN978-4-86629-310-3
第17回歌人クラブ評論賞受賞歌人による、ベスト歌人論!
目次
定価:2,530円(税込)
判型:A5判上製カバー装
頁数:136頁
ISBN978-4-86629-305-9
老いの孤独を軽やかに・・・・
。・゚・。。・゚・。。・゚・。。・゚・。・。・゚・。。・゚・。。・゚・。。・゚・。・
わが家のすぐ近くにある橋が「火の橋」です。なんの変哲もないちっぽけな橋ですが、駅からの帰途はこの橋をかならず渡らなければなりません。足音が白子川の川面に反響してこつこつと聞こえます。あの世から亡夫が帰って来る足音が、夜ごと夜ごとに聞こえるのです。
ーーー「火の橋慕情」本文より
定価:2,200円(税込)
判型:四六判並製カバー装
頁数:258頁
ISBN978-4-86629-303-5
若山牧水賞を受賞した歌集『野球小僧』を含む、既刊3歌集を収録。
『天機』
『トリアージ』
『野球小僧』
◆引用6首◆
公園で夜の電話をかけおれば今きわやかに一本の恋
タッチアップなど分かっているのか神宮で原を観ている君のまばたき
デーモン
<大門>が<悪魔>に聞こえる夏の朝女性車掌のうら若き声
この先十年わがミッションは如何なるや時計の電池替えつつ思う
生涯初のカーブを父に投げ込みし野球場には芝生なかりき
家系図の終点として吾はおり今年も咲けるソメイヨシノは
定価:2,750円(税込)
判型:四六判上製カバー装
頁数:194頁
ISBN978-4-86629-296-0
たましいの歌集。
騰々として、この命。
天のまことに委ねる。
憂國、草莽の土として。
会津の地にあって 歌を詠み継ぐ。
歌とは志であった。
『令和』より五首
我が庭の開きし梅に淡雪の降りつぐ朝や令和二日目
現代は政治家よりも政治屋がひしめく乃木精神よみがへれ
久々に若きをみなと相合傘初夏の雨の粹なはからひ
風もなく觸りし人もなきはずに音立て崩る本の山々
散り際を知りて散るのかもみぢ葉は風もなきまま音もなきまま
冬枯れし木々の細枝見るにつけ若き細かりし妻思ひ出づ
定価:2,350円(税込)
判型:四六判上製カバー装
頁数:146頁
ISBN978-4-86629-297-7
脳神経外科医師の第三歌集。
しゃれこうべ―――。
どこか異様で、
もの悲しく、
どこか陽気で、
笑っているように
見える。
定型という器も
言葉を剥がして
しまえば同じこと。
さて、歌の行く先は
この世か、あの世か、
それとも?
『しゃれこうべの歌』より五首
どくろの眼 深い奥には穴のあり花も見ていた星もみていた
地球史の四六億年今日も暮れ昨日みた月またのぼりきし
わが棺をつつむ火群の静かなり焼けゆく身柄を我が見つめる
我が意思のおよばぬ言葉「さような」一人つぶやくむなしきままに
春立つ日望月やわく野に照りて木の芽花の芽こころ急かせる
定価:2,750円(税込)
判型:四六判上製カバー装
頁数:192頁
ISBN978-4-86629-301-1
こころの裡なる鬼どもが騒ぎ始める
悲哀とユーモアをたっぷりと孕みながら日常がどんどんと浄化されていく不思議
作者の世界と覗いているものはいかなる鬼か
『鬼との宴』5首
ぶらさがるものはぶらんこ揺れもせずしんとだらりとさがりて真昼
真実の口へ右手を差し入れて手紙落としぬ手は無事なりき
ベランダの椅子に座れば見ゆるもの空しか無くて空を見てゐる
動くのを忘れて眠る丸むしをそつとつついて転がしてやる
このままでよいかと問はれそのままでよいと答へぬ あんぱん一つ
定価:2,200円(税込)
判型:四六判並製カバー装
頁数:144頁
ISBN978-4-86629-304-2
渇きたる心を満たすスイーツを探し求めて旅をつづけむ
短歌を作ることは物事を正確に多角的に見る目が養われます。
題材も様々なことを選ぶことができます。
短歌は心と体のバランスを取ってくれます。
短歌によってこれまでとは違う経験をさせてもらいました。
「あとがき」より
『星の祈り』より五首
車椅子駆りてボールを打ち返しテニスコートに風を起こせり
記憶にはなきことなれど真夏の日玉音放送必ず聞きし
街道に並びて立てる杉の木も行く人もみな風景である
夕暮れの家の灯かげの点々と線をなしつつ町にひろがる
黒々と間隔取りて電線につばめの群れいる旅立ちの朝
定価:2,750円(税込)
判型:四六判上製カバー装
頁数:210頁
ISBN978-4-86629-302-8
この歌集は本人の知らないところで、人生の締め括りをつけるように、出されることになりました。最後の詰めが出来ないことは残念でしょうが、一方では<そんなことは構わない>と、笑飛ばしているような気もします。
高見澤紀子(布々岐敬子 姉)「あとがき」より
『野に還りゆく』より5首
リストラをされないだけで幸福という幸福論 右肩下がり
桑の木の見分けもつかず桑畑は打ち捨てられて野(や)に還りゆく
ゆるゆると日の落ちてゆくこの夕べ異邦人には寂し過ぎぬか
物置の屋根に山栗ひとつ落つ ゆきたい処へ行けという声
気がかりの消えぬ真昼間雲も無くおのがじしなり山茶花の白
定価:2,750円(税込)
判型:四六判上製カバー装
頁数:218頁
ISBN978-4-86629-299-1
第三歌集。
雨の音を聴く。
ひそかに、そしてリズミカルに。
それは生死の韻律、一世界をめぐる心の有り様。
おだやかに過ぎていく日常がゆたかなしらべを奏でる。
『雨の韻律』より5首
つましくも凛とあるべし白梅を眺めし母の静かなこゑ
病み上がりを化粧(けはひ)に隠し人の中集ひ笑みたる私に疲る
露あつめ墨摺り書きし短冊の思ひ出ゆれてわが星祭り
さり気なく父に寄り添ふ壮の子の阿蘇のふところ草千里ゆく
いつしらに「学生街の喫茶店」口遊みをりシャッター通り
定価:2,200円(税込)
判型:四六判並製カバー装
頁数:120頁
ISBN978-4-86629-298-4
「静物」と言ふ名のうつはをじつとみるほんとうにさうかうたがつてゐる
この歌集の歌達は、妙にたどたどしく、妙に歪んていて、そのくに妙にシンプルで澄んでいる。
それは、対象であれ、それに投影される自分であれ、謎は謎として受け入れようとする著者の誠実さによる。-----森本平「解説」より
『しろのせいぶつ』より五首
プラスチックの光がキレイと君は言ふ 背骨は少し傾けてゐる
しづかなるガラスの向かふに置かれてる歪な壺にさはれない指
眼の前を二本の素足が歩いてく ひざの裏から春の産む少女
手や足やその他の私を撮つてゐるアルバムに撮影者はいない
凍る夜にマスクのあなた話してる喉は抉れた顔の続きだ
定価:2,750円(税込)
判型:四六判並製カバー装
頁数:232頁
ISBN978-4-86629-293-9
このあいだ君の子供を見かけたよ
机の上のクモ
横に飛ぶ
藤田武は「もっと自由に大胆に飛べ」と諭したという。師の言葉に、忠実であろうとする弟子水門房子。
かくも美しく古風な師弟関係が、旧来の「短歌とはこういうものだ」という固定観念を打ち破る歌集『ホロヘハトニイ』となった---------石川幸雄「解説」より
藍色の空に浮かんだグラデーション
宵の明星
三日月の月
おひさまが昇る頃には日常の生活のなか
あなたも
わたしも
かあさまがワッフル焼いて
誕生会
ストローで飲むリボンシトロン
あの人が四回異動するうちに
わたしは何をしてたか
五年
第二歌集。
いつせいに黄のクロッカス花開きははなき実家(さと)の庭に春来る
黄色いクロッカスの花が咲き始めている。
誰もいないこの家の庭に春が来た。
その静かな華やぎの中に歌のしらべが自然と寄り添う。
いのちのほんとうの形を思い起こせとばかりに、やさいく。
いのちに向き合うやさしさに満ちた第二歌集
本箱のうしろのすき間に落ちし額もう永久に会へぬ気がする
きさらぎのバケツに張りし薄氷をすくひて母のてのひらにのす
雲の上(へ)にくつきり映るふらここの影がゆるるよ誰もをらぬに
母逝きて空家となりし実家(さと)なれど郵便受けに夕日来てゐる
ひば伐れば椿の木にも陽のとどきうす桃色の花の咲きつぐ
定価:2,750円(税込)
判型:四六判上製カバー装
頁数:184頁
ISBN978-4-86629-291-5
いちめんのなのはななのはな渾身で古墳の春を抱きしめている
児島直美さんは春の歌人である。
書名も『「春の」引出し』だ。
言うまでもなく、長く厳しい冬をのりこえて迎えるのが春である。
巻頭歌のこの春の一首、古墳の丘のゐ一面の菜の花を明るく喜びにあふれたリズムで歌っている。
「春の古墳」でなく「古墳の春」であり、抱きしめているのは春という大きな季節であるのがすごい。
「渾身」は「今身」と掛けているのだろう。
児島さんは菜の花と同体になって、春を抱きしめている。
そのしなやかさに一切を抱きしめる力が歌集一巻をつらぬいている。 ーーーーーーーーーーーーー伊藤一彦 帯文より
空の青胸いっぱいに吸い込めばわたしに春の呼吸が満ちる
風光る坂をましろきシャツの群れ駆けぬけてゆく四月の明度
印刷室の朝はみずうみ水鳥が飛びたつように文字は生まれて
出席簿に斜線の続く行ありてきらきらネームの姫は目覚めず
ギリシャ神話の神の名のごと「イレウス」が母のカルテに記されし朝
定価:2,640円(税込)
判型:四六判上製カバー装
頁数:164頁
ISBN978-4-86629-287-8
第一歌集
小題をつけられた作品の集まりごとに、明確な題材、テーマが打ち出されている。
連作を単位としたテーマ性という考え方を強く打ち出したのが、昭和三十年代に始まるいわゆる「現代短歌運動」だが、この歌集もその意味で、まぎれもなく「現代短歌」の一巻である。
谷岡亜紀「解説」より
『七曜星』は、北斗七星の別名です。
北極星を探す指針となり、目的の地を目指す旅人を、無明より導く星です。輝く七つの星に安寧なる未来を、と願いを込めて歌集を『七曜星』と決めました。
著者 「あとがき」 より
『七曜星』より5首
歯科医院の壁にビュッフェの版画あり海空暗く人影の無く
巨大なる風車回りて海岸の四度目の夏ゆっくりと過ぐ
この世には悲しみの歌数多(あまた)有りて大地の民は泣きながら歌う
おぼろげな記憶の中を歩み行く托鉢の僧大寒の辻
生き生きて行き着く先に花野あり夢の終わりの百合の群生
定価:2750円
判型:四六判上製カバー装
頁数:216頁
ISBN978-4-86629-288-5
第二歌集!
能登の海山の春はことに光に満ち溢れる。水仙の花がどこかで聴き耳をたてている。
淡く、豊かに、時として苛烈に、そしてやさしく。相聞のしらべを底流にしつつ、清新な詩ごころを保つ。産声をあげるはずたった日からの長い歳月。それは熟成というまぼろしの時間。「全てに時がある」といわれうように不可欠な大切な流れであった。
『春の岬の晴れた日に』より五首
ふるさとを初めて出ずる少女われを見送りくれし駅の水仙花(すいせん)
走り根の根方に寄りぬ花蕊(はなしべ)にあかあかと入日しばしとどまる
逢うときは蝶のごとくに語らいぬ空と野原を想い描きて
財なすは得手ならざれば慎ましき暮しに大根美しく煮る
海遠く渡り来たる強き風夕べいつしか消えてゆきたり
定価:2,640円(税込)
判型:四六判上製カバー装
頁数:172頁
ISBN978-4-86629-286-1
第五歌集!
どこか遠くを見つめている。
その眼の輝き、その鼓動、たしかな命の華やぎ。
ひとときの挫折は高みを飛翔するための言葉の翼。
淡い恋情が薄紅の霞のようにしらべに纏わりつきながら。
『梧桐』より五首
吾ら子に戦(そよ)ぎし母は日本語がうつくしかりし頃の梧桐(あおぎり)
広大な地平の秘めゐる愛だらうどこまでもビート、どこにでもビート
そのかみは貝がらなりし吾らかもさざ波のやうにメール交はして
マンゴーの楕円の縁(へり)を剝きながら思ふ子午線の上の虚空を
迷ひつつ彼岸へ向かふその時もかたみに思ふ人のあれかし
定価:2,640円
判型:四六判上製カバー装
頁数:148頁
ISBN978-4-86629-283-0
第一歌集!
二ヶ月間におよぶ左尿管結石の闘病の記録である。
作者はうたを詠うことによって生きていられたのかもしれない。
ひとりで病院や家のベッドに臥しながら、
身体から漏れる言葉。
誰にも聞こえない声。
それらを短歌の定型におさめることで自らを支えていたのではないか。
江戸雪 解説より
寝るために耐える力の必要で大地の重さに身体あずける
結石を神と言おうか憤怒せる 肉体通しこころ試さば
澱みにて住む魚たちは清流に住みたる魚をうらみておるや
何もない青い空のみ写したり決意といってもなにも浮かばぬ
結局は石神さまは言っている頼らず生きよ自分で生きよ
定価:2,200円(税込)
判型:四六判並製カバー装
頁数:196頁
ISBN978-4-86629-285-4
第三歌集!
沖縄をうたう。ふるさとをうたう。
戦争と抑圧の歴史はこの島の風土に加わってたえず何事か問いかけてくる。
その問いがしなやかな言葉と思索をもたらし、明日の光を導くことを痛切に願っている。
「世を捨てよ身を捨つるより」祖父の言葉思ひてゐたり豚煮詰めつつ
心かろく死に遠き日々蒼天にひとの生の緒ふはふはとせむ
日の丸を燃やす意味さへ朧にして復帰反対デモに連なりき
沖縄の百年の鬱土地狩りのはじまりの記憶にいきる人たち
アボカドの種すべりゆくするすると掴み損ふ たぶん自分を
定価:2,860円(税込)
判型:A5判上製カバー装
頁数:238頁
ISBN978-4-86629-284-7
第一歌集。
あやまたず生きよと赤きはまなしの実の一粒が宙(そら)をみてゐる
あやまたずに生きようとすれば人は苦しむ。
苦しみをありのままに受容した時、あらたま子頃の自在が生まれる。
はまなしの赤い実の一粒、その佇まいから励ましの声を聞きとめる作者。生きることの真実を求めてやまない歌人の澄んだ眼差しに詠まれた536首。
『風のこもりうた』より五首
芍薬の花のくれなゐ瓶に活け部屋に充ちくる寿(ほ)ぎごと佳(よ)ごと
霙降る富士の溶岩(ラバ)原濡れそぼち野武士の様(さま)に工夫ら戻る
千年の後に繋がむ命かも椎の実踏めばしひの実のこゑ
里とほく煙のなびく一処(ひとどころ)老いても母の居るあたたかさ
詠ひつつ癒えてゆきたし点滴の雫ひとつは命の冬芽
定価:2,750円(税込)
判型:A5判上製カバー装
頁数:236頁
ISBN978-4-86629-279-3
第一歌集!
定型の基本に従って素直に生活実感をいつわりなく詠い、正直に純粋に真直ぐに詠み続けた作者が着々と詠み残した努力の結果が、そのまま本集に集約されていることに改めて眼を見張った。
御供平佶 序より
春の朝鏡にむかひ眉をひく胎動あれば手を止めて待つ
真夜中を打つ春のあめ雨音の向かうに荒るる湘南の海
初めての子離れの儀を助産師のためらひのなく臍の緒を切る
跳び縄と娘の顔交互にのぞく窓炬燵より見る正月二日
冷蔵の缶のビールの心地して子を待つ冬のグラウンドの夜
定価:2,750円(税込)
判型:四六判上製カバー装
頁数:172頁
ISBN978-4-86609280-9
第一歌集!
------------------------------
大木の歌は、あまりレトリックに凝ることはなく、見聞したものを簡明に描いていく作風である。
一見オーソドックスだが、こうした表現の粘り強さは、他になかなか見ることができない。
----------------------------------吉川宏志 解説より
『コンパスを振る』より5首
迷ひ来し笹の葉そよぐ山道にコンパスを振る心澄まして
たはやすく話しかける登記官長わが家の登記検索したと
この仕事終はればだれかと旅しなさい近頃母は共にと言はざり
何もかも親のせゐかと児を叱り涙ぐめるは児でなく私
疲れたと言ひてわが背にもたれ来し裕子さんのぬくもり覚えてゐるよ
判型:四六判上製カバー装
定価:2,750円
頁数:230頁
ISBN978-4-86629-281-6
ひろらかなひかりの歌、第一歌集!
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明るさと広がり、開放感と向日性、未来、前進、「ひかり」の内包するものは、そのまま山脇さんの歌の質や、方向を意味しているように思われる。ひかりを詠み、不義を許さぬ作者が、心に育んできたものを大切に守り続けることを、願ってやまない。
------------------------五十嵐順子 跋より-------------------------
『笹舟』より5首
透明な秋のひかりが降りそそぐ凪静もれる大土佐の海
栴檀の珠実ゆらして風がゆく無音のそらにひかるすじ雲
ゆるしてくださいお願いします五歳のこえは天に届かず
しっかりと吾が手を握る幼子の膚の温もりいのちの不思議
庭石に座れば太古の温みあり私はわたしと思う秋の日
定価:2,200円(税込)
判型:四六判並製カバー装
頁数:148頁
ISBN978-4-86629-282-3
第二歌集!
高々と握りこぶしを突き上げてインターナショナル歌いし日あり
定年退職後にあることを切っ掛けに短歌を始めましたが、歌人でもあった母の影響が多分にあったと思います。
短歌の題材は様々な分野に及び、私にとって精神のバランスを取るのに有用であったように感じます。
-----------「あとがき」より
『インターナショナル』より5首
羽化したる蝶のごとくに玄関に並べ置かれる娘の革靴
企業名背負いて一人さりげなく土俵の砂を掃き清めおり
引力に逆らうごとく伸びてゆく春の目覚めの樅の枝たち
点線が実線となれば傘をさし広重の絵の人物となる
二十年住みしマンション引き払う最後の風を窓より入れて
定価:2,750円
判型:四六判上製カバー装
頁数:222頁
ISBN978-4-86629-278-6
第三歌集!
清冽な水のような無垢なるたましいは、
時として痛ましい現実に向き合ったとき、
めらめらと悔しみの焔を噴き上げる。
焔はやがて透明になり青空へ消えていく。
そんな表情が歌の年輪に刻まれる。
真っ白な年輪に。
『白の伝説』より5首
雪深く残る吉野山のぼりゆく藎十方ほろびに向かふ朝に
ひまはりの種てのひらに暖めて野火のごとく悲しみのくる
手にこぼれ来たる伝言のやうに持たされし葱を抱けば
風のままに下りきたりぬうつしみのかぎりなく軽くなりゆくいのち
一瞬のこころさわぎか豆腐切る無心のひまにきざしくるもの
定価:2,750円(税込)
判型:A5判上製カバー装
頁数:184頁
ISBN978-4-86629-276-2
圧巻の第12歌集!
さびしい心には
さびしい調へが宿る。
神羅万象を見つめつつ
身近な日常に心を寄せながら。
生命の機微に触れてゆく。
花や鳥や蝶を詠む。自在に。
やがてまた、
どこかですべてが耀き始める時を願いつつ。
ああ、孤独な形象の連なり、いとおしいいのちの重み。
『冬蝶記』より5首
閉じし目にうっすら泪湧くような夏日のなかに立ち上りたり
胸奥につねに湛える真清水の尽きせぬほどに書きつづりゆく
花の息わが息合わす真夜中にうつし世のものなべては眠る
野の枯れ葉敷きて眠れる男おり 天下住処に臆すなき生
見えがたき世を見つづけし眼差しの潤むかなしさ人も老いたり
定価:3,080円(税込)
判型:A5判上製カバー装
頁数:312頁
ISBN978-4-86629-273-1
遺るべき第五歌集。
---------------------------------
小林はみずからの主題と方法が、現代短歌の主流となり得ないことを知っていた。
未発表の作品を含む既発表の作品をこの遺歌集で熟読するとき、希求していた現代短歌のあるべき姿を見出すことになろう。
小林が私ども示唆し、暗示するものは何であろうか。
---------------------------------篠弘 栞より
『途上』より五首
玄関を出るやかならず現れるこの蛇舅母(かなべひ)に好かれているや
杖つけば杖を持つ手の疲るるということを知る杖つきながら
赤紙を受くる心に重なるやステージ4を告げられている
株立ちの枝につのぐむ鋭きつぼみ冬の桜の命に触るる
きさらぎの朝(あした)の窓に澄みわたる末期なる目にも水色の空
定価:2,750円(税込)
判型:四六判上製カバー装
頁数:204頁
ISBN978-4-86629-277-9
第31回ながらみ書房出版賞受賞!!
第七歌集。
世界の外側に落ちる水の一滴にも
この世の中の理不尽な事柄に対しても
研ぎすまされた感性も針は分け隔てなく捉える。
びんびんとして、孤高な反響の環を広げるためにのみ。
『ひかりの伽藍』より5首
花いちもんめ 幼子売られ幼子の声は買われて村はなざかり
膝立てて横たわる女体の列島にくまなく電気の血がながれたり
空の音群青の音ひたひたとひかりの中をひとは降りくる
灯をともしきょうも始まるわが夜の視界の端に置かれて 砥石
そのひともこころの器に水を汲みさびしき昼をゆらしておらん
定価:2,750円(税込)
判型:四六判上製カバー装
頁数:234頁
ISBN978-4-86629-274-8
第一歌集!
大企業を退職後に短歌を始めた作者に現役時代の
厳しい仕事の作品はないが、その後の10年の
生活の中から生まれた作品は自由で楽しい。
ふるさとを思い、父母、兄へ寄せる作者の心は温かい。
詠む人を和ませる善意の歌集である。
----------------------------------------------------------------中根誠
『曲り家』より5首
茅葺きの母屋と馬屋の曲り家よ浮きでる木目の柱を撫でる
五年経ち出版社よりわが作文採用と聞く『あたらしいこくご』
朝ドラの「おかえりモネ」のペダル踏む登米の町の武家屋敷通り
わが自転車(チャリ)は老体となり錆び付けどたらふく食えと空気入れを圧(お)す
主将の属す双葉翔陽高校の校歌作詞の兄はほほ笑む
定価:2,750円(税込)
判型:四六判並製カバー装
頁数:198頁
ISBN978-4-86629-275-5
第一歌集!
失われ、変わってしまった自らの「少年」を著者は探そうとしているのだろう。だがそれを直接追い求めたら、結果的にはそれを失うこととなってしまう。だから他者の中の「少年」を追う。そしてそれは常に、その時その時の具体的な少年の顔で現れる。
―森本平 「解説」より
『炭化結晶』より五首
空っぽな人間だから真っ白なページばかりの本になりたい
少年を轢いた列車のブレーキが人間らしき言葉を放つ
窓際で頬杖をつき、群れずとも生きられそうな君を見ていた
死んでゆく少年たちの微笑みを透かして淡く夏の銀河は
六月の無風の午後の曇り空、季節はこんな日に死んでいく
定価:2,750円(税込)
判型:四六判上製カバー装
頁数:198頁
ISBN978-4-86629-272-4
第二歌集!
雪が来る ―。
言葉の恩寵を告げに来るように。
いのちが始まり、そして尽きるまでのつましい時間。
身めぐりの風景に寄り添い、そしてかぎりなく愛でる。
詩歌のまことをそっと小脇にかかえながら・・・。
『ことの葉にのせ』より五首
秘めごとのひとつ真綿に包みつつ箪笥の中へ金花虫蔵ふ
冴えざえと望の光に照らされて凍て空あふぐ雪の達磨は
朝の風わたる木陰に目をつむり夏の言の葉湧きくるを待つ
孤独なる蛙(かはづ)が岩間に鳴きつぎて春深き夜を語り尽くせり
森の香が少し欲しくて鉛筆の十数本を次々削る
定価:2,530円(税込)
判型:四六判並製カバー装
頁数:156頁
ISBN978-4-86629-269-4
賜物の第一歌集!
今日生きて明日には灰となる命吾れ半歩でも現役であれ
朝に紅顔、夕べには白骨の身(蓮如)――。
15歳から工場でもの作りに励んできた半世紀。
さまざまな偶然が重なり歌と出会った。
慣れない工具を扱うように、師も仲間もなく一人きりで歌作に励んだ。
灰色の労働も悩みも薪と燃やし、はかないこの世の命に向き合い歌を詠む!
『吾半歩でも現役であれ・・・第九とともに』より五首
流れ来る三秒組み立てラインにて今日も無口で過ごす人あり
湧く雲に流浪の雲の重なりて秋のきざしははや空にきて
川上へ行くほど水は清くして色はにごりつつ郷(さと)に流るる
ネジまはす無意識の手に温かきいきのひと息ふれて驚く
吾の永年勤続祝ひのその道で解雇闘争のビラをもらひき
定価:2,750円
判型:四六判上製カバー装
頁数:230頁
ISBN978-4-86629-271-7
第四歌集!
櫛田如堂はその茫洋とした風体の奥に、さまざまな思念や感情を秘めた人だ。
放射能分野の研究者、コカリナ奏者、禅の修行者、そして歌人。
櫛田の心は、多様な時空を旅しながら、人類の歴史を、宇宙の摂理を、亡き父母と妻を、今現在の天災・人災を思い、彫り深いことばを発する。
読者はここに、21世紀の魂の遍歴を体感するだろう。
ーーーー坂井修一
『よいむなや』より4首
落日の太古の空を夢見るや羊歯の葉先の黄昏蜻蛉
アリゾナの巨大サボテン群生す人間の時間サボテンの時間
菩提寺に修す真夏の七回忌母ゆきて妻ゆきて蝉鳴きやまず
秋の夜の闇なつかしみ君の名をよべば応ふる猫の声かな
定価:2,750円
判型:四六判上製カバー装
頁数:208頁
ISBN978-4-86629-270-0
この世の人情の温かさと辛さをユーモアに包(くる)んで詠いあげた、微苦笑の軽気球。とどこおりない洒脱な詠み口は、作者の人間愛と人生肯定の強さを証し、時折のぞく悪戯(いたずら)ごころが大らかな人柄を偲ばせる。
60年の作歌歴を凝縮した熟成の第二歌集。
(千々和久幸)
『草木瓜の咲く家』より5首
草木瓜(くさぼけ)の返り花咲く生垣に虻がひすがらきて遊びおり
取り壊す噂ながるるビルの階老人が夕陽背にのぼりゆく
乾反り葉を踏んでいこうかかさこそと乾いた音がこの靴は好き
フェイス・シールド百円也ふたつ買う夫にひとつ私にひとつ
陽の落ちて闇にとけゆく遺跡群ほーろろんと蜥蜴(とかげ)が鳴けり
巻き尺をのばしビュルンと放ちやる何もなかった一日(ひとひ)の終わり
定価:2,750円
判型:四六判上製カバー装
頁数:228頁
ISBN978-4-86629-266-3
第三歌集!
『青雁』『島梟の森』などの歌集の著者、佐藤恵美子は新アララギの探鳥の歌人として知られる。
人生半ば、病を得た彼女は、度々の生命の危機を乗り越えて来た。そのさなか、杖とも頼む夫君を失い悲嘆のどん底にあった。
しかし、やがてそこから立ち上がった。
彼女を暖かく見守る子や孫たち、庭を訪れる多くの野鳥たちを詠むことを力に再起したのだ。本書は一日一生の思いを伝える一歌人の「生」の記録である。(雁部貞夫)
『青葉木菟』より5首
古(いにしへ)の名残とどむる石畳踏みしめ登るコロンブス生家へ
歩幅広く歩む大鷺のたつる波鳰の浮巣を岸に寄せ来る
山歩きすでに叶はぬわが身なれ『日本百名山を詠む』を手に心豊けし
自然に親しむ心伝へしは祖父にして野鳥愛するわれとなりたり
慈悲心鳥の声聞き佇む里山の朝の冷気に活力の湧く
機の窓にまもりしかの山デナリ峰われはマッキンリーと呼びて親しむ
病みてより探鳥会に行くを得ず庭に尉翁あしたより来る
定価:2,200円(税込)
判型:A5判並製
頁数:152頁
ISBN978-4-86629-261-8
第二歌集!
ひらかれた言葉から拓かれる世界。
かるい言葉のなかに打ち込められたひとつひとつの物語。
その物語をわたしたちはいくつ立ち上げることができるだろうか。
「みめいしす」リテラシーの力である。
『みめいしす』より5首
この庭にシャボンの玉はうつくしくうまれ来ぬ子をくるくる映す
死の朝はあわきひかりか みちびかれモノレールという器に乗りぬ
威勢よく神輿が夜をかきまわすわたしひとりをのけものにして
いちじくのかおりにむせぶ 君はただいずれたれかの妻となるべく
表面をバターナイフでうっすらとけずるくらいのはなしでいいから
定価:2,750円(税込)
判型:四六判上製カバー装
頁数:212頁
ISBN978-4-86629-257-1
第一歌集!
なんと生き生きと豊かな世界なのだろう。
こういう歌集に出会いたくて
私は短歌をやっていたのだとも思う。
何のために歌を詠むのか、
歌が自己表現を超えて世界に開かれているかどうか。
蓬田真弓は現代に生きる私たちの背中を力強く押してくれる。
奥田亡羊「解説」より
『白木蓮ほころぶ』より5首
盗人のように闇夜に植えに来し白木蓮(はくれん)ほころぶ四年(よつとせ)を経て経て
「ホタル橋」「かわせみ橋」と名付けられ探検マップは完成近し
雪やみし杣道ゆけば我らより先を歩みし貂(てん)の足跡
「先生はいつまで此処さ来てけるの」問われ答える「死ぬまでだべな」
雪原は光の粒子を放ちつつ我を励ます アルキハジメヨ
定価:2,640円
判型:四六判上製カバー装
頁数:166頁
ISBN978-4-86629-267-0
挑発する知の第二歌集!
「栞」より
世界との接し方で言うと、没入し切らず、どこか醒めている。かといって冷笑的ではない。謎を含んだ孤独で内省的な知の手触りがある。 -谷岡亜紀
「新しい生活様式」が、服部さんを媒介として、短歌という詩型にどのように作用するのか注目したい。 -河野美砂子
服部の目が、観察する眼以上の、ユーモアや批評を含んだ挑発的なものであることが窺える。 -島田幸典
~『新しい生活様式』より五首~
カマキリに食はれて終はる夏の日のあたまを去らずそれも人生
猫として生まれてをらばキタイスカヤ通りの裏を歩いてゐたか
工作を失敗したる夜の更けてひとり眠りをむさぼるわれは
目に見えぬなにかに触れてゐたらしいゆつくり酸化してゆく林檎
鴨川のデルタのうへのなつぞらをリリエンタール七世が飛ぶ
定価:2,750円(税込)
判型:四六判上製カバー装
頁数:202頁
ISBN978-4-86629-265-6
第一歌集。
合唱の声が次第にまとまって誰の声でもな声となる
それぞれに満月ひとつ詰められて販売される花札の箱
海中(わたなか)の世界で飛び魚が語り伝える風の体験
不思議な歌集だと思う。
この歌集では、しばしば現代短歌の主役をつとめる<われ><現在><人間>が主役ではなく、脇役をつとめたり、全く出てこなかったりする。
だからだろう、私たち読者は、どこに連れて行かれるか分からない楽しみと冒険とほんの少しの不安を味わうことになる。
ーー佐佐木幸綱・帯文
『春の幾何学』より五首
どこから来てどこへ行くかと駅員に根源的なことを聞かれる
光線が斜めにさして垂直に生命(いのち)たちゆく春の幾何学
たんぽぽの綿毛預かり青空はまたたんぽぽの配置を変える
さざなみにしばし休んでもらうため今朝湖は氷を張った
少しずつ薔薇色帯びてゆく宇宙 天文学者の晩酌進む
定価:2,640円(税込)
判型:四六判並製カバー装
頁数:164頁
ISBN978-4-86629-26-1
第一歌集!
はじまりは糸のやうなる葱の芽の
あをあをと立つ新春の庭
「蝶」や「蟻」、且つは「もぐら」のような小動物までもが登場し、そこからまた、自分の家の庭の風景や、野に咲く花々へ目のゆく、その目線の柔らかさが実に魅力的なのである。
---浜田康敬 「跋文」より
『草かもしれず花かも知れず』より五首
電話機の着信記録非通知を示せば想像膨らませをり
青色の紙に直線引くやうな電線伸びをり夏空の中
三ミリのありが五ミリの虫を曳きじぐざぐ歩きて視界
息継ぎのごとく地面を盛り上げてわが家の庭に棲むもぐらもち
見慣れたる川も田んぼも旅人の心で見れば美しきわが町
定価:2,750円
判型:四六判並製カバー装
頁数:192頁
ISBN978-4-86629-258-8
第四歌集!
背負った赤いリュックに、いっぱい詰まった時間の果実。
愛おしいもの、なつかしいものに、精一杯の祝福を送ろう。
歌を生きるために。
『赤いリュック』より5首
三日分の酒のつまみも詰めこんで赤いリュックの明日からの旅
履きなれしスニーカーで行く気安さよ浅草界隈ひと日を歩く
紫陽花の葉脈ぬめぬめ光らせてナメクジ言うか「俺様が行く」
初夏(はつなつ)の街ゆく娘(こ)らの笑い声とびちるキャッキャわれににもかかる
定価:2,200円
判型:A5判変型並製カバー装
頁数:234頁
ISBN978-4-86629-255-7
これがジャズ!
これが青春!
ピュアに輝く
1960年代、ファンキー、クール、ソウルフル
米軍兵站慰安基地神戸港、日米安保の呪縛、
ヴェトナム戦争、激動する状況下
ジャズ喫茶神戸バンビの青春群像
ビート・ジェネレーションの末裔が熱く問いかける
君は、いまを、時代を、世界を、生きているかい?
『神戸バンビジャンキー』より5首
セルリアンブルーに眠れ ひと夜ぢゆう青をむさぼる青に埋もれて
セルリアンブルーの夢見のあとはるかわが魂が還つてこない
肉体へちよくせつ迫る夏の雷ロングホットサマーをひきつれてくる
オリオンの夜をうろつく狼のえりまき巻いて野生尖らせ
変はる変はる時代は変はるよディラン唄ふ変へやう時代扉こぢあけ(エポックノック)
定価:2,750円
判型:四六判上製カバー装
頁数:182頁
ISBN978-4-86629-256-4
第二歌集!
両手いっぱいに盛られた花々は、
時として美しい物語を語り始める。
色彩豊かに詰め込まれたさまざまな人生を。
豪奢な花、名もなきも花。歌を支えてきたのも花。
『花ものがたり』より五首
月光は香れるやうに注ぎたり焔となりて曼殊沙華さく
恩寵の青天なりき筆下し詩文のびやかに条幅の文字
篤学の父の遺伝子うけ継がず酒を愛せしことのみ継ぎぬ
食足りてオリンピック観る 玉音に慟哭せしを友が爆死せしを
歯切れよき津軽りんごの爽やかさ雲が流れて秋は来にけり
第二歌集!
夫の他界に悲観の日々もあった。
次々に襲ってくる病を克服してきた。
先師・山名康郎に歌学びをした懐かしい日々。
世界を旅し、日本を旅し、多くのものを見て来た。
さまざまに去来するもの。
このさびしい輪廻の駅に無言で立つ。
『輪廻のひとこま』より五首
雪の降る朝はモノクロ雲垂れて竜の目に見ゆる信号の青
夢を追ふ旅の坂道ふり帰る素足のわれに夕日ひたひた
言ひたきこと言へずくよくよ帰り来ぬ傘の雫をシュッと振り切る
老後のためと始し短歌読み返す相聞歌一首だになきは寂しき
蝉のこゑもか細くなりぬわれもまた未知なる輪廻のひとこまを生く
定価:2,860円
判型:四六判上製カバー装
頁数:234頁
ISBN978-4-86629-252-6
第二歌集!
技巧を凝らすでもなく、奇をてらうでもなく、素直でありのままをうたうが、いいたいことをきっちりとまとめて、的確である。十余年の歳月の思いを刻んだ『清河原』からは、香春の風土と歴史の上に築かれていった一人の人間の歩みが、静かに、しかし豊かに立ち上がってくる。
ーーー内藤明「跋」より
『清河原』より五首
いにしえの駅家(うまや)の賑わい再びと今開かるる「香春道の駅」
山の道・野の道・畦道すべてよし香れる土の足裏に弾む
亡き夫の遺影を縁に持ち出して剪定すみたる庭を見せたり
玉葱の程よき抵抗手に受けて引きゆく百本春日にまぶし
腰に下ぐる蚊取り線香夕闇に火の赤く見ゆ吾が位置示し
判型:四六判上製カバー装
頁数:232頁
定価:2860円(税込)
ISBN978-4-86629-250-2
感性の高みへ!第八歌集。
ベイビーズ・ブレス―――。
先師・春日井建は「赤ん坊の溜息」と表現しながら霞草を詠んだ。生れ出るもの、この世から消えていくものたちかの、かすかな息づかい。惜しみない拍手をもって、一世界のたしかないのちの形象を刻んでいく。さりげなく、細やかな感性の針を輝かせ、この上なく美しく、ひそかに。
定価:2,500円(税込)
判型:四六判上製カバー
頁数:194頁
ISBN978-4-86629-242-7
第二歌集!
家族ぐるみのお付き合いを頂いている伊藤榮一・典子夫妻から大切な歌稿を預かったが伝統ある「水甕」で磨かれた作品に何のお手伝いもせず当方が学ばせて頂いた。多くの方々のご清鑑と逝去されたご主人の供養になることを祈るばかりである。
<楠田立身 帯文>
山の端を離れむとする初ひかり長き稜線の茜極まる
残りたるパセリ数本キッチンに挿せば四月の草萌えの風
朝明けを真昼を夕を老鶯のさへづりに励まされて、夏
母が好きでわたしも好きな長十郎肩寄せ合ひて食べし日のあり
あの夏に夫と選びしパラソルのブルー褪せたり空に吸はれて
定価:2,500円(税抜)
判型:四六判上製カバー装
頁数:210頁
ISBN978-4-86629-243-4
深い緑の葉ですね名告つてくれないか春は樹木語わかる気がする
逃げ水を追いかけるように、この小宇宙を彷徨する一人。
わたしの声が聴こえるか?息遣いが伝わっているか?
さまざまな物象は、かなしみの相を見せながら明滅を続ける。
そう、逃げ水とは此の世から彼の世へとつながる命そのもの。
ちひさな林檎サイズの天秤ゆふかぜを載せて光れりちひさな皿が
みづいろの水族館に二時間を過ごせばさしみ身に鰭なきは
眠れずに棚より取り出す星座図の北斗の柄杓に水あり光る
縄文の人らも水辺に眺めしや恋螢ひとつまたひとつ飛ぶ
たれもみな過ぎてゆくひとたれもみな消えてゆくひと さくら葛湯を
定価:2,500円(税抜)
判型:四六判上製カバー装
頁数:184頁
ISBN978-4-86629-240-3
第一歌集!
にはとりも犬もうさぎも猫もゐてねずみ奔りき八人の家
雪の朝クアラルンプールの子へ向けてふはりふはりとメール打ちたり
大鷹が振る鈍いろの空の鈴 バードサンクチュアリの夜明けに
遠い昔の家族がうたわれていたり、外国に住む子の家族が登場したり、時間的にも空間的にも豊かな広がりが読めるのが、この歌集の大きな特色だろう。表現とは、つまり、いま自分が立つここの歴史や背景、深さや厚みをイメージする行いなのだということを、あらためて思い出させてくれる。
<佐佐木幸綱 帯文>
コーランの祷り流るる朝まだき私の知らない小鳥がうたふ
置き去りの心ふくらむ花の季裁縫箱をしづかに開く
母からの便り途絶えてまたの夏雑木林に針ゑんじゆ降る
月見草ゆふべの白はすでに紅けふは帰らむわたしの家へ
かたらちを初めて知つた通学路の坂にアンジェラスの鐘を聴きにき
定価:2500円(税別)
頁数:186頁
判型:四六判上製
ISBN978-4-86629-229-8
気魄の第二歌集!
天日直射して、命の海をまばゆくする。
すべて清らかな湧水のように、地を浸し、こころを浸す。
穏やかにーー。
万象ことごとく、歌の梢を揺らせやまない。
月朧手を握るのか繋ぐのかあのひと時は青春なりき
身の奥に響を留め地下鉄は薄闇の穴残して行きぬ
ゆく河に棹をさしたし 然あれど黒く澱みて見通したたず
車窓より黄昏(たそがれ)ていく海見えて我の意識を過去へと運ぶ
清らかな水の源(みなもと)究(きは)めたく瀬に沿へる道辿(たど)らむとせり
判型:46判並製カバー装
頁数:276頁
定価:2,750円(税込)
ISBN978-4-86629-238-0
古今東西の古典から現代文学、思想を読み解く文学者の貌。
情報科学の先端分野を探求し続ける科学者の貌。
伝統とは何か。
変革とは何か。
人間とは何か。
その時、歌は・・・。
横溢する知性と感性が、縦横無尽にこの世界を跳梁跋扈する。
荘子よ、馬場あき子よ。アイザック・アシモフよ。無為なるすぐれたものたちはとうに滅び果て、この地球の上は経済ロボットのような人間が跋扈している。ああ、せめてもは、黄金の言葉をもって私の貧しい胸の中に入り、甘酸っぱく渋く苦く、感覚と観念の渾沌を醸しつつ、宇宙の遊びをやりつくしてくれ。(本文より)
定価:2,500円(税別)
判型:四六判上製カバー装
頁数:206頁
ISBN978-4-86629239-7
第六歌集!
『透明な刻』から11年。東北大地震の余震は、ガラスの透明な立像をぎしぎしと鳴らし続けている。歌人が切り取った風景には、記憶のない生誕地・双葉町を始め、両親に関わる時代(とき)の流れが刻印されている。さらに過ごしてきた11年の透明な刻にも淡い色彩が射し込んできているように見える。
記憶なきわれの生まれし双葉町の野のタンポポは西洋種かも
思い出だけの遠き福島と思いおりにしっかり視よと近づいてくる
夜の峠越え行くバスの曲がるたび窓をはみ出す月を見ており
川ふたつ渡り野に咲く彼岸花さがしに行かんさねさし相模(さがむ)
河口まで北上したる阿武隈川 川幅広きをいま渡りゆく
常磐線特急ひたちの終点は品川なれば品川まで乗る
定価:2500円(税抜)
判型:四六判上製カバー装
頁数:220頁
ISBN978-4-86629-237-3
第三歌集!
鎌倉の駅前客を待つバスに
さつと乗り来る実朝の風
旅人は風に歌う。
恋は花に紛れようとする。
太陽は月光を全身にあびながら。
何の衒いがあろうか。素の心のままに歌う。
身近なる小田急・横浜両線の町田駅わがうき世の要
夢二絵の和服姿の女性立つそこより入るは風韻の道
一本の傘を杖とし佇める歌の聖は何を詠はむ
まみどりの森にかこまれ緑なす水面をゆらす鳥々の声
陽の光気持ち良き日はわが身にも発散しゆく何ものかある
定価:2,400円(税別)
判型:A5判並製カバー装
頁数:162頁
ISBN978-4-86629-235-9
第一歌集!
そもそもスパイスのプロだった。独自のレシピでお客さんを唸らせつづけたが、その陰には相棒というべき奥さんの絶大な協力があった。(中略)
詩人のセンス、文章力にも恵まれているから、何でも書いて残す気になるにちがいないだろう。人生を語るなんて気はないらしくて、世の中のひとつひおつの瞬間や事のなりゆき、目の前のもろもろが、おもしろくてならないのだと思う。奥さんが短歌と出会ってくれたことを心から喜びたい。
『スパイス・ノート』は、そんな奥さん、北川美江子さんのおもしろさが冴え冴えとみなぎっている一冊目の歌集である。(今野寿美ー跋文より)
黒き津波のことは知らずに東京の余震のおなかを眠るみどりご
こくこくと飲んでいた水昼寝するおさなごを洩れわたしを濡らす
三十五年のちの校舎に若き日のわれのしっぽを踏んづけている
さんざんだ、さんざんだよと雨が降りあたり一面金木犀散る
愛しさが食べたさになるてのひらで子豚まるごと油ぬるとき
定価:2,500円(税抜)
判型:四六判上製カバー
頁数:192頁
ISBN978-4-86629-236-6
第一歌集!
新アララギのニュー・ウェーブ
伊澤昭子さんの歌は、そもそも始めから活きいきとした新鮮な作品が多く、私の眼を引いた。短歌作品を造り出すのに必要な資質のよさが備わっている作者である。ここに言葉の海へ新たな才能が船出する事を祝福したい。
雁部貞夫「序にかえて」より
遠く散れ胸の湿りの重たさが霧になるなら風の日もよし
団子坂の緩きカーブに吾を抱き曽祖母歌いしかの子守歌
無意識に終のベッドに手の動く母は好みし茶の湯のしぐさ
眠いから一寸寝るよと父逝きぬ最期の最後は騙されました
午を過ぎ広重の雨地を打てり天より直下人を蹴散らす
定価:2,500円(税別)
判型:四六判上製カバー装
頁数:202頁
ISBN978-4-86629-232-8
第一歌集!
著茶の作品は自らの風土を貴び、家族をいとおしみながら詠いあがられていて、こよなく温かい眼差と機知が感じられる。個性にあふれた表現はつとめて伸びやかで、読みつづほどに短歌の良さをしみじみと感じさせてくれる歌集である。
<林田恒浩 帯文>
深川のくらやみの町にB29の焼夷弾降る 三月十日
古びたるホールの隅にひそと坐しマザーテレサはミサに祈りぬ
天(あま)かける風のにほひが好きといふ君に似合ふよサバンナの風
父を知らず育ちし夫が父となり祖父(ぢぢ)となりたり 片栗の花
八十路にはなに見えくるや判らねど さあロシナンテ海を渡らう
定価:2,750円(税込)
判型:四六判上製カバー装
頁数:198頁
ISBN978-4-86629-227-4
第一歌集。
糠床の胡瓜をあげて鯵を焼く
中くらいの幸せ良きかな
金沢を象徴するような美しい手毬を表題とする歌集『加賀てまり』。
これからもただ過ぎてゆくばかりに見える日常から、
詩のこころをもって歌うべきものを捉え歌い続けてゆくだろう。
坂本朝子「跋」より
転移なしの結果かみしめ絹針で桔梗模様の加賀てまり縫ふ
鏡台の底の園児の手のあとの肩もみ券は有効だらうか
看護師は純ちやん来たよと遺体撫づいく度吾を呼びゐし母か
雪解水でコーヒー入れよう夫婦の日しまひこみゐしペアカップにて
尾羽根もてピシャリと尾長は柿の枝と私の愚痴も払ひて去りぬ
定価:2,860円(税込)
判型:A5判上製カバー装
頁数:204頁
ISBN978-4-86629-225-0
第三歌集!
歌を詠む。詠み継ぐ日々。
それはすべての命を繋ぐ所作だ。
言葉は恩寵、こころは再生のために。
身辺の異界を手探りし、輝くたましいに問う。
寄る辺なく骨鳴るような寂しさは知らずに咲けよ径のべの花
見尽くしておらぬこの世の愛しさに光の樹林を往きつ戻りつ
傷を舐めひとり静かに治すとか 山の獣の心を思う
プラス志向と十回となえ立ち上がるわれの節分まだ間に合うか
思い出の静まりおれよ只いまは銀杏しぐれに打たれていたし
定価:2,750円(税込)
判型:四六判上製カバー装
頁数:196頁
ISBN978-4-86629-213-7
汗ばめる首に冷感スカーフを巻いて佇む晴れ女なり
高速バスを待つてゐるまの解放感 雲の図鑑を鞄に入れる
かへる胸なければひとりきて立たむ無人駅こをわれにふさはし
海と山の美しい徳島の自然を背景に、社会を、身の回りの日常を、そして何より自分自身を、まっすぐに見、まっすぐに感じ、自在に思い、自在にうたう<われ>の歌集である。旅の歌が多く見られるのは、広く生き、多くを体験したいとのぞむ<われ>の歌集でもあることを示しているだろう。 佐佐木幸綱ー帯文ー
深呼吸してゐるやうに降る雨の音に目ざめて鳥の目をせり
たかく高く枝張る欅にふれてをりすきとほりゆく悲しみ一つ
色づいた順にしづかに離れゆき落ちてゆかない葉ののこる街
身の内に深き森あるいちにんの泉をくみにゆきたしわれは
白くきれいな指だつたひとその指に描かれ花となりゆきし絵具
定価:2,750円(税込)
判型:四六判上製カバー装
頁数:176頁
ISBN978-4-86629-221-2
第一歌集!
この生徒(こ)らと過ごしし日日(ひび)も人生(ひとよ)にて
裁断せずに記憶とせむか
評論集『平成データ短歌論』を著者にもつ歌人が、教師時代の三十年を振り返って詠んだ第一歌集である。実は、私もある時期まで教師を目指していたのだが、こんな<先生>になりたかったな、と心底思う。 ー帯文 黒岩剛仁ー
迸る噴水のごと湧きあがるこころとあひぬ教師となる日
少年よまつすぐに立てまがりしはわが支へ棒のみじかきゆゑか
「先生も大変だよね」なにげなき言葉にたぢろぎ委員長をみる
満開の枝垂桜のかがようてたむくさまなるわが離任式
駆けあがるまだ駆けあがる始業ベル鳴りやまぬうちに教室へ 夢
定価:2,500円(税別)
判型:四六判上製カバー装
頁数:192頁
ISBN 978-4-86629-219-9
現代女性歌人叢書 25
第三歌集!
晴れわたった蒼空、
曇る空、雨の空、雪の空、月がかがやく夜の空。
毎日同じようで違っている空。
その下にひろがる街並みに、
人々の暮しがあるのだ。
二十三階の窓辺にひとりことばを紡ぐ。
やわらかな詩魂がつつむ。
生きてあらば晴耕雨読の耕す日音きしませた芝刈りおらん
あの春はさくらばかりを追いしかな 箕面、大仙、長谷寺、吉野
シリウスは耀き居待ちの月は照る友はこの世のどこにもおらず
超高層の屋上に見る東京はビル、ビル、川、海 人影あらず
一年に一度か二度の凪という空はみずいろ海はそらいろ
定価:2,500円(税別)
判型:四六判上製カバー装
頁数:196ページ
ISBN 978-4-86629-222-9
第30回ながらみ書房出版賞受賞!!
第四歌集。
風景が流れていく。
流れていく日常が堰き止める言葉。
いつしか分け入っていくことだろう。
記憶の向こう側からやって来る森へ。
形象の森へ、ひそかに。
満開のまだ一片も散らぬ花 生きている人は去って行く人
気の抜けた青いソーダの薄闇に時間失くして眠っていたか
ただ一度咳き込み死にし父ゆへにわれに介護の日々は来たらず
みごもらぬまま落ちている赤い蘂ぬれたアスファルトにむすうに
毎日の誰のためでも無い時間出勤する前花に水遣る
定価:2,500円
判型:四六判上製カバー装
頁数:234頁
ISBN 978-4-86629-207-6
おもいつきたることあるらしく
二階からいそぎおりくる
テオとであえり
さりげなく。しかし、噛みしめて、じっくりと味わうものだ。
上澄み液の底に沈殿するこの暮らしの時間を。
雪よこい はじめての雪はじめてのテオがむかえる正月のため
少女ふたりならんでたてばおてだまのようにまあるい白い雪ふる
のぶつなの生家のにわに井戸ありていまもむかしの空をうつせり
糸川のみずにネオンのみどりいろくだけて人はさけをのむべし
わたりゆく鳥のこころよ こころあれどテオはじぶんの旅にはでない
定価:2,500円(税別)
判型:四六判上製カバー装
頁数:162頁
ISBN978-4-86629-216-8
第二歌集!
季節のめぐりとともに在る。
旅とともに心の揺らぎが在る。
自らを語らず、老いを語らず、日常を嘆かずに。
脳外科医であるこの歌人の眼差しは
深い慈愛そのものだ。
転べども慈姑(くわい)の角(つの)には力あり寄るなさわるな一人でたつと
夏至の宵遊女すらりと立つごとくあやめは白き化粧うかして
皮下注射つまみし皮膚の伝え来るだるさ辛さや心の叫び
地球儀に絹のハンカチかけしごと海原おおう秋のたか雲
光あび春寒沼に亀ありて首ながながと花ながめおり
定価:2,750(税込)
判型:四六判上製カバー装
頁数:224頁
ISBN978-4-86629-217-5
「都会の自然という題材を選んで、心情を伝えられるような短歌を」と述べる著者の住む築地周辺は、かつては外国人の居留地としてにぎわっていた。
四季折々の周辺の情景をひたむきに詠いあげていて、その作品にはまさしく衒いがない。
若き日に藤村を学んだという著者の、ますますの活躍を祈ってやまないものがある。
林田恒浩 帯文
この部屋に緑を置けば秋は来ぬ汝(な)は逝き去りて独り身の午後
武甲山鍾乳洞の石筍はなみだ溜めおりしんしんとして
武蔵野に馬頭観音おわしいて真冬に蒼く草はそよげり
秋の陽が水面に映える隅田川連なるビルをきらり鼓舞して
百年の歴史閉じる日来たりしか築地市場に朝霧は満つ
判型:四六判上製カバー装
頁数:210頁
定価:2,500円(税別)
ISBN978-4-86629-210-6
第四歌集!
見わたせばとりどりの花咲ききそふ我しらずして歌口ずさむ
身めぐりの樹木や花々、鳥や虫たちをじっと観る。聴き耳をたてる。
森羅万象、呼吸している。歌を口ずさむように、呼びかけるように。
四季の移ろいこそが歌の時間、流やまぬ生を受け止める浄福だ。
春 かいつぶり三羽のひながかたまりてゆらゆらうかぶ春の日のあくび
夏 あめ色のうつせみぐつと樹皮つかむ生をきざみしあかしのごとく
秋 金色の銀杏並木をゆく人のほほのほのかに黄に染まりたる
冬 雪囲ひのぼたんの側に水仙の小さき花の凛と咲きゐる
定価:2,300円(税別)
判型:四六判上製カバー装
頁数:144頁
ISBN978-4-86629-208-3
街川の四季いち早く滔々と水の流れて夏の日反す
著者の住む地域を流れる街川は、信長が弟の信勝と戦った古戦場の名残の名塚取手、庚申塚が川辺にある。その街川の四季折々の情景に癒され励まされ、大切な心のオアシスとなっている。更に短歌のモチーフになり第二歌集になった。帯文(青木陽子)
淀みなく流るる川の音乱し鳶忙しく舞ふ影長し
年頭に夫の書きたる予定表死の翳りなど微塵のあらず
前向きの残生是とし声にして誓へば闇の開ける思ひ
若き等の声新鮮に受け容れて共にピザ食む異の空間に
易々と語れぬ事情幾つ経て劇団はやも二十年迎ふ
判型:四六判上製カバー装
頁数:216頁
定価:2,500円(税別)
ISBN978-4-86629-209-0
これは、格別でもない一組の夫婦が、最後の別れの数年をようやく濃密な時間を過ごし合ったそのほんの一端の記録のようなものに過ぎない。
……その間の、ときどきに関わって捨て難いおもいにまつわるものだけにしたが、それでも六八一首にもなってしまった。
これでも思いの丈には届かない(あとがきに)
せ
少しずつ頭を塞く妻がバス停にわれを見送ると言い張りて来る とお
分刻みに寝ては起きする妻とともに寒夜徹して身も冷え果てつ
妻の名を毎日かならず一度書く面会票にわが名とならべ
言葉無き妻にしあれどわが言える言葉にかえし指つよく締む
安置所に会いし帰りに行き処なく入りし書店の書棚もぼやけ
千の風になんぞならずにわが胸に妻よいつまでも留まりくれよ
おかあさんの「あはははは・・・」という心からの転げ出る笑いもう聞けないのです
「一期一愛」と刻みし妻の墓所に来てマスクをはずして”濃密”にいる
判型:四六判上製カバー装
頁数:154頁
定価:2,400円
ISBN978-4-86629-202-1
第一歌集!
ここちよい相聞のひびきをもって、
こころの襞がくっきりと透けて見えるひととき。
これが愛だ、恋だ、そして言葉たちの自由な饗宴だ。
さあ、わたしの歌世界で存分に憩い、輝いてください!
あかつきの夢の朝顔ぱっくりと我を飲みこみほほえみにけり
楡の木のしげみの下にすわっていると恋しいあなたを殺したくなる
空に浮かんだ三日月の先が凍てついてコキンと壊れてしまいそうな夜
生焼きの肉にレモンをしぼる君わたしもそんな風に愛して
物事の始めはすべて子宮からわが身を見つめフラメンコ踊る
定価:3,000円(税別)
判型:A5判上製カバー装
頁数:204頁
ISBN978-4-88629-197-0
その庭にはおごそかで豊かな時間が流れていた。
梔子、山茶花、季節の花々に人生がかかわっていく不思議。
夫、子供、孫、すべてがいとおしい存在として華やぐ幸せ。
齡九十を過ぎて、なお歌は滋味を深めつつ熟成を続けている。
中年のグループと席異なれど等しく岡井隆の弟子
夕空の下に手をつなぎ交々に泣きしよセーラー服の友とわれとは
荷物なきカートは軽し下り坂ゆくときに波にのるごと動く
蹲踞の水にくる鳥一羽いつしか友となりて待つわれ
美しく夜が明けたりととのへて枕辺に置きし衣に手を通す
判型:四六判上製カバー装
頁数:196頁
定価:2,500円(税別)
ISBN978-4-86629-195-6
もの悲しい眼差し、やわらかな手触り。
そして、屈強で比類ない洞察力と批評精神。
目を背けず、口をつぐんだまま、
この世界の沈黙の崖を見上げる。
透明な川を流れ、おおらかな海へと向かって、
輝きの帆を立てよ!
うらぎりをくり返し来し半生か内耳しびるるまで蟬しぐれ
白いマスクの百人の児らが帰りくる百年のちの空から村へ
生きものはほそき声あげ餌をもとむ寂しいときはさびしいといえ
どのように口をつぐめば死者の目とおなじ水位を流れてゆける
いくつの遺影にみられて部屋にかさねあう温もりもやがてひとつ潮騒