判型:四六判上製カバー装
頁数:216頁
定価:2,750円(税込)
ISBN978-4-86629-344
人と人を結ぶのは言葉
帯文よりー 佐佐木幸綱
<栞付き>
歌に込められた”戦禍の記憶” 大石芳野
硬派の抒情性 栗木京子
事実から歌へ 小池昌代
<引用10首>
星空を朝日が殺す一点の曇りなき日を始めるために
白紙からつくりはじめる新聞は日々完全を追う不完全
蜂蜜が頤(おとがい)を垂る逝く日までニュースにまみれ生きてゆくのか
湧き上がる。真夏の空の青さから積乱雲の白とめどなく
近づいてゆけばゆくほど雲離れ遠い水平線だ、読者は
ドローンの眼で見るドリップ珈琲の乾きゆく核燃料プール
魚跳ねて傷む水面を縫う針の迅き運びを重力という
感情は液体としてここにあり湧く、込み上げる、浸る、溺れる
薄曇に白くけぶれる名残りの月 きょう本当を伝えられたか
共同通信の修正電文流れてきてひと文字直す「る」から「た」へと
定価:2,750円(税込)
判型:四六判上製カバー装
頁数:184頁
ISBN978-4-86629-300-4
夕映えの川面を滑る赤白のアメンボ二匹はシングルスカル
田上嘉尋さんは宮崎市の中心を流れる大淀川の川沿いをしばしば散策するのだろう。そんなある日夕映えのなかに見たおそらく高校生のボート。「アメンボ二匹はシングルスカル」の捉え方が楽しく面白い。日ごろから若者を愛し、自然を賞でる田上さんならではの歌だ。
家族や自然とともにリタイア後の暮しをゆったりと落ち着いた調べで歌う田上作品は読む者の心を豊かにしてくれる。時に怖いような鋭い作もあるが、それでも人間愛から出ている。
人生のより深みを向かおうとしている田上さんのこれからの歌をさらに期待している。
山芋の伸びゆく蔓は現世を手探りしつ依り拠捜せり
伊藤一彦・帯文
『夕映えの川面』より五首
左手に歯磨きの技教へをり新しきわれ探さむとして
四人(よつたり)も碁の友来たり足らざれば豚も参加の猪(しし)鍋となる
不機嫌が充満したる地球より遁れるごとくソユーズが発つ
たつぷりと夏のみづゆく大淀の川に流れぬ月を見る朝
回らない寿司なら行くと君は言ふ回るもいいと一度も言はぬ
定価:2,750円(税込)
判型:四六判上製カバー装
頁数:194頁
ISBN978-4-86629-296-0
たましいの歌集。
騰々として、この命。
天のまことに委ねる。
憂國、草莽の土として。
会津の地にあって 歌を詠み継ぐ。
歌とは志であった。
『令和』より五首
我が庭の開きし梅に淡雪の降りつぐ朝や令和二日目
現代は政治家よりも政治屋がひしめく乃木精神よみがへれ
久々に若きをみなと相合傘初夏の雨の粹なはからひ
風もなく觸りし人もなきはずに音立て崩る本の山々
散り際を知りて散るのかもみぢ葉は風もなきまま音もなきまま
冬枯れし木々の細枝見るにつけ若き細かりし妻思ひ出づ
判型:四六判上製カバー装
定価:2,750円
頁数:230頁
ISBN978-4-86629-281-6
ひろらかなひかりの歌、第一歌集!
-------------------------------------------------------------------------------
明るさと広がり、開放感と向日性、未来、前進、「ひかり」の内包するものは、そのまま山脇さんの歌の質や、方向を意味しているように思われる。ひかりを詠み、不義を許さぬ作者が、心に育んできたものを大切に守り続けることを、願ってやまない。
------------------------五十嵐順子 跋より-------------------------
『笹舟』より5首
透明な秋のひかりが降りそそぐ凪静もれる大土佐の海
栴檀の珠実ゆらして風がゆく無音のそらにひかるすじ雲
ゆるしてくださいお願いします五歳のこえは天に届かず
しっかりと吾が手を握る幼子の膚の温もりいのちの不思議
庭石に座れば太古の温みあり私はわたしと思う秋の日
定価:2,750円
判型:四六判上製カバー装
頁数:230頁
ISBN978-4-86629-271-7
第四歌集!
櫛田如堂はその茫洋とした風体の奥に、さまざまな思念や感情を秘めた人だ。
放射能分野の研究者、コカリナ奏者、禅の修行者、そして歌人。
櫛田の心は、多様な時空を旅しながら、人類の歴史を、宇宙の摂理を、亡き父母と妻を、今現在の天災・人災を思い、彫り深いことばを発する。
読者はここに、21世紀の魂の遍歴を体感するだろう。
ーーーー坂井修一
『よいむなや』より4首
落日の太古の空を夢見るや羊歯の葉先の黄昏蜻蛉
アリゾナの巨大サボテン群生す人間の時間サボテンの時間
菩提寺に修す真夏の七回忌母ゆきて妻ゆきて蝉鳴きやまず
秋の夜の闇なつかしみ君の名をよべば応ふる猫の声かな
定価:2,750円(税込)
判型:四六判上製カバー装
頁数:212頁
ISBN978-4-86629-257-1
第一歌集!
なんと生き生きと豊かな世界なのだろう。
こういう歌集に出会いたくて
私は短歌をやっていたのだとも思う。
何のために歌を詠むのか、
歌が自己表現を超えて世界に開かれているかどうか。
蓬田真弓は現代に生きる私たちの背中を力強く押してくれる。
奥田亡羊「解説」より
『白木蓮ほころぶ』より5首
盗人のように闇夜に植えに来し白木蓮(はくれん)ほころぶ四年(よつとせ)を経て経て
「ホタル橋」「かわせみ橋」と名付けられ探検マップは完成近し
雪やみし杣道ゆけば我らより先を歩みし貂(てん)の足跡
「先生はいつまで此処さ来てけるの」問われ答える「死ぬまでだべな」
雪原は光の粒子を放ちつつ我を励ます アルキハジメヨ
第二歌集!
夫の他界に悲観の日々もあった。
次々に襲ってくる病を克服してきた。
先師・山名康郎に歌学びをした懐かしい日々。
世界を旅し、日本を旅し、多くのものを見て来た。
さまざまに去来するもの。
このさびしい輪廻の駅に無言で立つ。
『輪廻のひとこま』より五首
雪の降る朝はモノクロ雲垂れて竜の目に見ゆる信号の青
夢を追ふ旅の坂道ふり帰る素足のわれに夕日ひたひた
言ひたきこと言へずくよくよ帰り来ぬ傘の雫をシュッと振り切る
老後のためと始し短歌読み返す相聞歌一首だになきは寂しき
蝉のこゑもか細くなりぬわれもまた未知なる輪廻のひとこまを生く
定価:2,500円(税込)
判型:四六判上製カバー
頁数:194頁
ISBN978-4-86629-242-7
第二歌集!
家族ぐるみのお付き合いを頂いている伊藤榮一・典子夫妻から大切な歌稿を預かったが伝統ある「水甕」で磨かれた作品に何のお手伝いもせず当方が学ばせて頂いた。多くの方々のご清鑑と逝去されたご主人の供養になることを祈るばかりである。
<楠田立身 帯文>
山の端を離れむとする初ひかり長き稜線の茜極まる
残りたるパセリ数本キッチンに挿せば四月の草萌えの風
朝明けを真昼を夕を老鶯のさへづりに励まされて、夏
母が好きでわたしも好きな長十郎肩寄せ合ひて食べし日のあり
あの夏に夫と選びしパラソルのブルー褪せたり空に吸はれて
定価:2,500円(税別)
判型:四六判上製カバー装
頁数:206頁
ISBN978-4-86629239-7
第六歌集!
『透明な刻』から11年。東北大地震の余震は、ガラスの透明な立像をぎしぎしと鳴らし続けている。歌人が切り取った風景には、記憶のない生誕地・双葉町を始め、両親に関わる時代(とき)の流れが刻印されている。さらに過ごしてきた11年の透明な刻にも淡い色彩が射し込んできているように見える。
記憶なきわれの生まれし双葉町の野のタンポポは西洋種かも
思い出だけの遠き福島と思いおりにしっかり視よと近づいてくる
夜の峠越え行くバスの曲がるたび窓をはみ出す月を見ており
川ふたつ渡り野に咲く彼岸花さがしに行かんさねさし相模(さがむ)
河口まで北上したる阿武隈川 川幅広きをいま渡りゆく
常磐線特急ひたちの終点は品川なれば品川まで乗る
定価:2,750円(税込)
判型:四六判上製カバー装
頁数:198頁
ISBN978-4-86629-227-4
第一歌集。
糠床の胡瓜をあげて鯵を焼く
中くらいの幸せ良きかな
金沢を象徴するような美しい手毬を表題とする歌集『加賀てまり』。
これからもただ過ぎてゆくばかりに見える日常から、
詩のこころをもって歌うべきものを捉え歌い続けてゆくだろう。
坂本朝子「跋」より
転移なしの結果かみしめ絹針で桔梗模様の加賀てまり縫ふ
鏡台の底の園児の手のあとの肩もみ券は有効だらうか
看護師は純ちやん来たよと遺体撫づいく度吾を呼びゐし母か
雪解水でコーヒー入れよう夫婦の日しまひこみゐしペアカップにて
尾羽根もてピシャリと尾長は柿の枝と私の愚痴も払ひて去りぬ
定価:2,750円(税込)
判型:四六判上製カバー装
頁数:196頁
ISBN978-4-86629-213-7
汗ばめる首に冷感スカーフを巻いて佇む晴れ女なり
高速バスを待つてゐるまの解放感 雲の図鑑を鞄に入れる
かへる胸なければひとりきて立たむ無人駅こをわれにふさはし
海と山の美しい徳島の自然を背景に、社会を、身の回りの日常を、そして何より自分自身を、まっすぐに見、まっすぐに感じ、自在に思い、自在にうたう<われ>の歌集である。旅の歌が多く見られるのは、広く生き、多くを体験したいとのぞむ<われ>の歌集でもあることを示しているだろう。 佐佐木幸綱ー帯文ー
深呼吸してゐるやうに降る雨の音に目ざめて鳥の目をせり
たかく高く枝張る欅にふれてをりすきとほりゆく悲しみ一つ
色づいた順にしづかに離れゆき落ちてゆかない葉ののこる街
身の内に深き森あるいちにんの泉をくみにゆきたしわれは
白くきれいな指だつたひとその指に描かれ花となりゆきし絵具
定価:2,750(税込)
判型:四六判上製カバー装
頁数:224頁
ISBN978-4-86629-217-5
「都会の自然という題材を選んで、心情を伝えられるような短歌を」と述べる著者の住む築地周辺は、かつては外国人の居留地としてにぎわっていた。
四季折々の周辺の情景をひたむきに詠いあげていて、その作品にはまさしく衒いがない。
若き日に藤村を学んだという著者の、ますますの活躍を祈ってやまないものがある。
林田恒浩 帯文
この部屋に緑を置けば秋は来ぬ汝(な)は逝き去りて独り身の午後
武甲山鍾乳洞の石筍はなみだ溜めおりしんしんとして
武蔵野に馬頭観音おわしいて真冬に蒼く草はそよげり
秋の陽が水面に映える隅田川連なるビルをきらり鼓舞して
百年の歴史閉じる日来たりしか築地市場に朝霧は満つ
判型:四六判上製カバー装
頁数:266頁
定価:2600円(税別)
ISBN978-4-86629-172-7
互いを思いやりながらの穏やかな日常生活が、しだいに壊されてゆく。
まだまだ遠い先のことと思っていた<その時>…。
事実を事実として受け止め、静かに立ち向かって行く作者の凛とした姿勢故に、一首一首の内包する悲しみは深く、読者の胸に響く。
平林静代「序」より
十月のジグソーパズルの終片を収むるごとくコスモス咲きぬ
老職人はわが足の甲をひと撫でし草履鼻緒の長さを決めぬ
葦焼けてかぐろき原を覆ふまで予祝の雪よこんこんと降れ
癒ゆるなき夫につけつけもの言ひてあかるき秋のひと日うしなふ
若き日に君と通ひし古書店の前で待ちなむ先に逝きなば
定価:2500円(税別)
判型:四六判上製カバー装
頁数:220頁
ISBN978-4-86629-160-4
お い ど
御居処とふ古びし言葉思ひ出す
ふつくらどしり鏡餅坐す
御居処とは尻のことで、女性が用いた用語という。
「おんいどころ」とも言うらしい。
老境に達した方の経験から生まれたユーモアであろうか。
晋樹隆彦 跋より
春愁のあつまり易きゐさらひの鞣してをりぬ春のふらここ
啓蟄の土の中より這ひ出でて出たとこ勝負の百万の虫
家持の国府に生れしひばりの子 弥生の空はお前のものだ
草まるめ鍬を洗へば遠くより馬の匂ひのたすがれが来る
流れくる桃を百年待つやうに酔生無死と生きてゆきたし
判型:四六判上製カバー装
頁数:184頁
定価:2500円(税別)
ISBN978-4-86629-156-7
第二歌集!
わたくしが生まれてわたくしが母となる星の天蓋若草の原
青森の地霊が騒ぐ。歴史の時間が堰を切って流れる。
ひそやかな相聞のひびきに雪が舞い、樹木が揺らぐ。
こころを生きる、そう、歌に寄り添いながら星々の樹海へと。
クレヨンの左右に揺れて広がれる海のあをいろ子のいのち透く
ペンの先より水色のことばあふるるを嘘は美しくあらねばならぬ
辛抱づよき愛の花とふ先生の文月二十三日わがあぢさゐの忌
雪国の女はくらき恋をする雪女の裔のあかき唇もて
いのち繋ぐをとこを繋ぐ黒髪の挿頭の花となれや夕焼け
定価:2500円(税抜)
判型:四六判上製カバー装
頁数:222頁
ISBN978-4-86659-153-6
歌がその本来のいのちを輝かせるのは、
さりげない日常の表層に浮かびあがってくる詩的光芒。
そのかすかな息遣いをこころに掬い取った時、
深い憂いを帯びながら、
風景の内側へと分け入っていく。
しなやかに猫またがせて塀の上のペットボトルは夕かげのなか
稜線のやさしくなりて裏八ヶ岳はふところに昼の雲を抱くなり
もうわれを呼びすてにする人なくて日本海側師走大雪
花を抱き降りたちしところを空広く田を焼くけむり流れていたり
定価:2500円(税別)
判型:A5判上製カバー装
頁数:166頁
ISBN 978-4-86629-142-0
第24回若山牧水賞受賞!!
野球が好きだ。ジャイアンツの長嶋が好きだ。そんな少年もいつしか還暦へとさしかかった。果敢に大組織の中で仕事に立ち向かい、仕事に暮れ、時にはやりきれない愚痴や憂さを酒に慰藉する。
だが、この歌びとは永遠に少年のままである。
語るほどに曖昧模糊となるが哀し広告志望の我の原点
野球小僧なりたる吾は童心に返り早めに入場したり
出勤の途次にイヤリング落ちており思い遂げしか昨夜の形
空地にて父と交ししキャッチボール何故か心に浮かび来る朝
悔いるべきはただ一つのみ子なきこと酒酌み交わす息子ありせば
判型:四六判上製カバー装
頁数:200頁
定価:2500円(税別)
ISBN 978-4-86629-138-3
『みちのくの空』より5首
岩手山は白を激しき色としてみちのくの空占めてかがよふ
野生化せし浪江の牛ら飼ひ主を待つごと待たぬごとくさまよふ
をりをりに我にさからふ少年の面の確かさ速さ鋭さ
月一輪凍湖一輪響き合ひましづかに鳴る冬の音楽
スポットライト当てる君にも隙間より夕べのほそき光来てをり
杳き日に父くちずさみゐし「イッツァ・ロングウェイ」あなたの正義胸に緩む
幼らを招きて小さき雛の膳ならべて笑ましし母恋ひ止まず
父の忌も過ぎて流離の思ひあり寂しき吾等の初夏ならむ
寸松庵色紙臨書しをれば春の鳥鳴き過ぎてゆく寂しき曙
夏の夜の夢かとぞ見るハッブルの捉へて送る銀河の葬送
曽我さんは若き時からこつこつと一人で歌を作っていらしたようだが、私の知っている曽我さんの歌はここ十年ほどのものである。
しかも曽我さんは私事を話されないので恋愛時代や結婚生活について私は何も知らないのだが、大恋愛の末に結ばれたらしい夫とも当然ながらさまざまな葛藤があったのだろう。
の影の部分を臆さずうたっているところに、私は歌人としての曽我さんの心意気を見るの
である。
鹿取未放・「跋」より
判型:四六判上製カバー装
頁数:166頁
定価:2300円(税別)
ISBN:978-4-86629-091-1
ぎらぎらとした本格的な夏がやってくる。私の好きな夏である。少年の時から、この季節は気に入っている。怠けていても、あまり目立たないし、時間がたっぷりと流れている感じで、生きているという実感があるからである。山田震太郎『夏をつかむ』より
四六判上製カバー装 3000円・税別
著者の作品は、対象への暖かく優しい視線を特徴とする。歌い方、題材の捉え方がつねに肯定的である。もしそれが無意識の結果だとすれば、作者の人間性の根本に世界に対するそのような愛と肯定感があるという証であり、短歌を作る上での意識的な態度だとすれば、そこに作者の歌に対する認識と作歌哲学があるだろう。
谷岡亜紀・解説より
私は、短歌とはそれが気の利いた高等な表現手段ではなくても、だれでもが素直にみんなと伝達し合える文学なのだ、とつくづく思うのである。それは、全ては自分の日常の言葉で、それを短歌表現に託する心の強さとして働くからである。
浜田康敬・跋より
四六判上製カバー装 2500円(税別)
眠られず独り苛立つはくめいのあさがほは今ひらきつつあるか
腹這ひてSFよみゐる少年の羽ばたかむばかり大き耳たぶ
北風のくぐもりうなる如月のはげしきものぞ春来ることも
昨日来たる山鳩ならむひつそりと雪降る枝に胸をそらして
下葉枯れつつ花穂かかぐる藤袴むかしの秋にまた邂はめやも
『ガラスのはこ』の歌稿を手渡されて、翌朝に入院し、病室の床頭台に広げて目を通しながら、私は不思議の感に打たれた。そこに並んでいたのは、このひとが平生、見せない種類の歌が多かったからである。人間の頭はどういうつくりになっているのだろう、私はその時、二十年前の揚羽蝶の紫を思い出したのである。
光田和伸・跋より
四六版上製カバー装 2500円・税別
翡翠はぬるめる水に零しゆく色といふものはなやかなものを
吹く風はさびしかれども幾つかづつ寄りあひながら柚子みのりゆく
書きながら見知らぬ人に書くごとく水に書きゐるごとく思へり
青き空そよげる若葉したたれる水の音するそれだけなれど
かなかなの声をきかむとだれもみな風見るやうな遠きまなざし
水の音が聴こえる。そっと耳を澄ます。
なつかしいその響き、高鳴る鼓動。
太初に言葉があったように、
私の未生以前に歌が息づいていた。
こころを潤し、流れる水のように歌を詠む!
四六版上製カバー装 2500円・税別
西行、明恵、登志夫と書きし白紙を寒満月に差し出だすなり
春寒き磯の口開け、海に入る女それぞれ化粧してをり
腿長に海の面に寝ねてをり漂ひをればゆふぐれてゆく
人はなぜ舟出するのか、濃き淡き青海原のまひるの平ら
みづうみのけさの水面想ふときわれは微笑みうかべてをらむ
まぼろしを見る。まぼろしと向き合う。
日常の隙間を、時として古代を、
自らの歌のしらべの中にそっと喚び込む。
特異な時間意識の深層には産土の地、土佐。
はるか、輝く黒潮のかなたに歌が届く!
四六版情勢カバー装 2500円・税別
五十路越えほのかに慕ふは背高く象牙の肌の妻似のをとめ
ひむがしのオリオン座流星群厚くまなこを閉ぢて心眼に見む
世の中は諸行無常と語れども生れしからには死ぬまで生きむ
如月の夕日に雪野は紅く燃えひととき麗し滅びゆく美は
バスを待ち寒さこらへて茂吉読むけふ開戦日その日の歌を
磐梯、飯豊の名峰の伏流水が生み出す米と酒を日々味わう。
会津の医家として人々との語らいから歌を紡ぎ出し、麗しい夫人との旅を楽しむ。
これを「好日」と言わずして何と言うべきか。 雁部貞夫・帯文より
四六版上製カバー装 2600円・税別
修正液乾ききるまで待てなくてデコボコだらけのわれの人生
そを聞きに行く啄木と旅をする「次は終点。高知、高知です。」
二十二で二十七人子を持った気におそわれる二〇〇〇年春
「赤ちゃんに卵巣嚢腫が見られます。」告知とともに知った性別
マンマとはご飯なのかママなのか確かなものはわれを呼ぶこえ
アウトドア教えてくれし夫からの贈り物かも今夜の月は
高知育ちの吉本万登賀さんを若い時から知っている。何ごとにも積極的で、第一歌集『青春スクランブル』も学生時代に出版した。はきはきとして快活で行動力にあふれた土佐の女性を「はちきん」というが、見事な現代の「はちきん」だ。本人は「デコボコだらけの人生」と自分のことを歌っている。そりゃ人生ひたぶるに生きるだけ「デコボコ」は生まれる。その「デコボコ」を乗りこえる彼女の『ひだまり』の明るさは読む者の心を温かくしてくれる。
伊藤一彦
四六版上製カバー装 2700円・税別
服部幹子『花びら餅』
花びら餅に新春祝う母と吾かく睦み来し幾歳月を
一夜明け清しき正月雪積みて初穂飾りに雀の群るる
松井香保里歌集『胡蝶の夢』
岐阜蝶は寒葵の葉を食み育つしぶきその花葉陰にひそと
奥美濃の明るき山路に巡り遇ふ春の女神の岐阜蝶の羽化
円子聿歌集『ひびき』
角ひとつ曲がる街路の花水木春めく風にやさしさを添ふ
うす曇る春の霞に花水木幾つ街路を紅に染む
山岡紀代子歌集『みすずかる』
木遣歌社に木霊し樅の木の依代と立つ八ケ岳背に
拝殿の四方を囲める御柱寒の蒼空に凛とし立てり
A5版上製カバー装丁 2500円•税別
花びらがそれぞれ灯りを返すので夜の桜はこんなに白い
フライパンに玉子の白身伸びていき遠いどこかの半島になる
こんなにも天と大地は繋がりたいと思っていたのか降り止まぬ雨
ふるさとのことを聞かせてと言ったあと女は山ごと男を抱く
この先に家があるはずと辿りゆく真夏の道のやがて消えゆく
夕暮れの半ば開いてる交番に入っていくのは秋風ばかり
まぼろしを視る。いやそれが現実なのかも知れない。こころの裡に見え隠れする風景も、年とともに変幻自在の相を濃くしていく。歌が冴える。心がたかぶる。
四六判上製カバー装 2500円•税別
仲秋の空を渡れる満月に話しかけたくて黙してゐたり
肩書きの無き真つ新な名刺もて月の浦区の住人となる
時刻版の落せる夏の濃き影にわたくし消してバスを待ちをり
唐突にありがたうねの美しきこゑの響き来夕さりつ方
ほぐしつつさすりつつわが掌は母の背中に甘えてゐたり
天山に積もりし雪を仰ぐごと腰低くして母を仰ぐも
吉田久美子さんの住む、福岡県大野城市の「月の浦」はまことに美しい地名である。その月の浦で家族を愛し、自然を賞でる吉田さんの歌は、謐かで、温かく、奥深い。彼女自身が地上をうららかに照らす月のように思われる。伊藤一彦
四六判上製カバー装 2500円•税別
こうした仲間をもてることは、私たちのこれからの生をより豊かに、温かくしてくれると思う。
戦後、奇跡のようにつづいた戦争のなかった時代にも、最近は変化が兆しはじめている。
そうした時点において、本会の意義は一層重要さを増している。各自の戦中•戦後の体験記であり、戦争の無い世界への熱い祈念である本書が、会員のみならずひろく一般にも読まれ、後の世代の平和に貢献できるよう、心から願っている。結城文•序より
軍歌からラブソングへ 朝井恭子
少年のころ 綾部剛
灯火管制 綾部光芳
鶏の声 板橋登美
ニイタカヤマノボレ 江頭洋子
戦の後に 大芝貫
語り部 河村郁子
昭和二十年八月十五日 國府田婦志子
戦中•戦後の国民学校生 島田暉
空 椙山良作
確かなるもの 竹内和世
村人 中村キネ
太平洋戦争ー戦中•戦後 花田恒久
氷頭 林宏匡
記憶たぐりて 東野典子
少年の日の断想 日野正美
宝の命 平山良明
空に海に 藤井治
戦中戦後 三浦てるよ
椎葉村にて国民学校初等科の過程を卒う 水落博
夏白昼夢 山野吾郎
生きた時代 結城文
ひまの実 四元仰
Ⅰ部 弱兵参戦の記
弱兵の悲哀
南支戦線異状あり
マラリアに冒され死と直面す
ああ帰還、自由の身
Ⅱ部 近代志向から軍国主義へ 戦前日本の体験記
戦前の近代化志向とその挫折
近代への覚醒と希求
戦争の予兆 戦前日本の集約
Ⅲ部 戦後の日本 敗戦がもたらしたもの
戦後の混乱とアメリカ化
近代化の中での伝統行事
農業近代化の挫折
思想的活力の喪失
伝統の凋落と再生
わが死生観のゆくえ
四六版並製カバー装 1260円•税込
『赤光』Shakkō Red Light
かがまりて見つつかなしもしみじみと水湧き居れば砂うごくかな
crouching
I observe the sand moving
as the water
springs up―
feeling its sadness deeply
kagamarite
mitsutsu kanashi mo
shimijimi to
mizu waki ore ba
suna ugoku kana
死にしづむ火山のうへにわが母の乳汁の色のみづ見ゆるかな
in a volcano,
quiet as death,
I can see the water―
its color,
my mother’s breast
shi ni shizumu
kazan no ue ni
waga haha no
chishiru no iro no
mizu miyuru kana
四六判並製カバー装 2000円•税別
title "Prism of Mokichi"
written by Mokichi Saito
translated by Kitamura FusaKo & Yuki Aya & Reiko Nakagawa & William Elliott
Mokichi Saito is the most famous tanka poet in Japan.
He was born at 100 years ago, and he made the foundation of Japanese modern tanka poetry.
We have translated into English his first poem book.
2160yen
福島に生れて暮らして六十余年ここがふる里この地に生きる
雪の歌いくつを詠めば来る春か雛を納むる今日も降り継ぐ
車椅子に夫を乗せて公園の今年の桜に会いに行きたり
病気の夫を抱えつつ勤めを全うした後に遭遇した¨あの日¨。
それ以来、原発の歌以外をうたうことができなくなったという。
この地ー福島県郡山市ーに生きる著者の、抑えがたい声がここにある。 久我田鶴子
A5版上製カバー装 2730円•税込
■完売御礼!
■第二十一回ながらみ書房出版賞受賞!
授業中反応せぬ子がわが言ひし本借りに来る つくし芽を出す
稲妻に身を裂かれゆく木の痛み和らせむとして背に爪を立つ
五百人の園児の揃ふ運動会すぐに見つかる踊らぬ我が子
雲脱ぎし岩手山ふとあらはれて夏を待つ蒼あさぞらに満つ
みちのくに太き脈なす北上の川を良夜のひかりがあらふ
北を指す針セシウムに狂ふ春さくらあやふく光りつつ咲く
ショッキングな出来事とその現実に向き合う作者の真摯な姿勢は、現代短歌の世界が忘れかけている、全身全力でうたうことの意味を広く問いかけるにちがいない。
佐佐木幸綱•跋より
四六判上製カバー装 2625円•税込
庭樹木の季の移ろひ告げたくて紅き椿を遺影に供ふる
わが名もて親族、知人へ賀状書く所帯主とふ余生を生きて
ひとすぢの涼風わたりてわが膝の歌集めくれり昼のまどろみ
時折は遠回りして愛でたりし合歓の古木は今日伐られたり
如月に逝きたる夫ゆえ花どきの京にて納骨なさむと思う
亡夫君追慕のこころを連綿と継ぐなかに
ふるさとの自然をみつめ
そこに生きる人間の営みに
健やかなまなざしを放つ
そして古寺を巡り
旅の思いを 投影しながら
ひと日ひと日の歩みを重ねる
おみなひとりの生を
遊行の高みへと 運ぶ
久泉迪雄 |
A5版上製カバー装 2835円•税込
あめ風に洗はれしさはやかな里山を一人占めする夕べは秋に
冴え冴えと雪のおちれば山寺のかはらに白くうかぶ夕あかね
機窓には雪の日高の見えてきて息の住むまちはもうすぐそこに
四六判上製カバー装 2625円•税込
中城ふみ子についての本格的な評論集が初めて刊行された。
本著をもって中城ふみ子研究の大方が出揃ったとも言えよう。山本司序文より
四六版上製 2700円税込
吾は知る強き百千の恋ゆえに百千の敵は嬉しきものと
踏絵もてためさるる日の来しごとも歌反古いだき立てる火の前
天地の一大事なりわが胸の秘密の扉誰か開きね
誰か似る鳴けようたへとあやさるる緋房の籠の美しき鳥
ともすれば死ぬことなどを言ひ給ふ恋もつ人のねたましきかな
年経ては吾も名もなき墓とならむ筑紫のはての松の木のかげに
『踏絵』は柳原白蓮が最初に出した歌集で、若き白蓮の告白的短歌の結晶といわれ、大正4年3月に竹柏会より出版されました。
「白蓮は藤原の女なり。」で始まる序章は佐佐木信綱、装丁は竹下夢二によるものです。
このたび初版本を復刻いたしました。
四六判上製カバー装 1800円•税別
血だるまとなりて縋りつく看護婦を曳きずり走る暗き廊下を
along the dark corridor
I run dragging a nurse
who clings to me-
her blood
all over
炎見る友に眼鏡をかしをりて闇ぼうぼうと燃え明かるのみ
lending my glasses
to my friend watching
the flames
I just see the darkness
lit up by burning fires
はじめに竹山広氏に快く原爆短歌の英訳を許可していただいたことを心より感謝します。三千首ほどもある氏の短歌のなかから、もっとも生々しい原爆体験の歌が含まれている第一歌集『とこしへの川』から百首をすべて抽出することになるまで、長い時間がかかりました。結城文
四六版並製 定価2000円•税別
Title Tokosie-no-kawa (Everlasting River)
written by Hiroshi Takeyama
translated by Aya Yuki
Hiroshi Takeyama is the famous tanka poemer in Japan.
He was bombed the atomic bomb in Hiroshima.
And he made Tanka-poem of bomb experience.
We have translated into English his first poem book.
名を呼べばふりむく躯呼ばるるとふことそのものの歓びに満ち
答えなど要らぬ問ひなど問ひかけて答へむとする君を見ており
見るままに来て■る冬ぞ カブールの井戸辺に凝る暁の水
記憶の底にまぎれゆくべきこの冬を大袈裟に抱き合ひて別れき
人生の半ばのと或る朝のアフガンの青空高く消えてゆく雲
報道カメラマンの詠む現場!!
「友達ニ出会フノハ良イ事」はアフガニスタン攻撃の取材でアフガニスタンに行ったおりの作品である。自分で撮ったカラー写真と組み合わせた独自の校正で、歌集としては未開拓の分野に踏み込んだものである。
佐佐木幸綱•跋より
四六版並製 3000円•税別